Destruction5―「逢魔が刻」(続)
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○"十字の檻"、研究主任室
三枝の個室研究室。端末のディスプレイに向かい、何やらデータを整理
している三枝。
ディスプレイ注写、映っているのはザンサイバー2号機――擬似ブラック・
スフィア起動試験機の起動映像。開放されたままのコクピットの奥、
操縦桿を握っている昴。起動する機体、床板をこじ開けようと暴れ回る。
三 枝「やはり…擬似ブラック・スフィア起動の鍵は斬馬 昴」ほくそ笑む
三枝。「しかし、何故制御を受け付けず、地下の破導獣格納庫へ…?」
脳裏をよぎる、爆発、炎上する破導獣軍団。
三 枝「ザンサイバーの…飼主を保護するためのシステムに似た物が働いた
…?」
はっ、と何かに思い当たり、キーボードを叩く。ディスプレイに表れる
表示。
と、室内に鳴り響く警報。何事かと、椅子から立ち上がる三枝。
再びディスプレイ注写。表示されている、
"Xann-cyber,making record"の
文字。
○"十字の檻"上空
夕空。姿を現している、マント状装甲の白い機体、ガイオーマ。
コクピットの中、眼下の基地施設を睨みつけている優。
優 「出て来い…出て来い破導獣!」
★
施設屋上。そのガイオーマの機体を、怖れるように見上げている昴。
昴 「優…くん?」
○マッサージ店二階、トキさんの部屋
トキさん「ここで下働きや、機械の修理とかやって世話になっていてねえ、
慣れればなかなか住み良い環境だよ。女の子も多いしねえ」
はっはっは、と笑うトキさんと呼ばれる人物。室内の弦に対し、久々に
尋ねてきた友人に対するように接する。そのひと言ひと言に戸惑いを
隠せない弦。
既にあのイオナ似の女は居ない。薄暗く散らかった部屋には、蘭子も含む
三人だけ。
トキさん「どれ、茶でも…おっと」
蘭 子「先生」椅子から立ち上がりかけ、よろけるトキさんを素早く支える
蘭子。「お茶は私が出します。先生はつもるお話もあるでしょうし」
トキさん「ああ、済まないねえ蘭子…さて」椅子に座ったまま、
弦に向き直る。「何から話せばいいかな? いや、そもそも君がここに来た
ということは、回忌しようとしていたあらざる事態が起きてしまった、という
ことだね。すなわち…」
にやり、と、笑って見せる。
トキさん「君の親友、柾 優君が敵となって君の前に現れた――という
ところかね?」
瞬間、椅子に座ったままのトキさんの襟首を片手で締め上げる弦。がたん、
と机の上の幾つかのものが散らばり落ちる。
弦 「ジジィ、いいかげんにしやがれ手前!」歯を剥き出し、怒りを露に
する。「ふざけろ! 手前といい月島といい、一体何モンだッ! 畜生、
こないだからこんなンばっかじゃねえか!」
襟首を締め上げた男に対し、これまでの憤り、すべてをぶつけるがごとく
吼える。
弦 「ICONの女大将、黒鬼のお面親父、そして手前ェら、人に意味
不明の謎かけばっかぶつけてきやがって! 冗談じゃねえ、手前らのヘタな
クイズ番組に付き合うつもりは毛頭ねえんだ! 大体手前ェら、どこまで
知ってやがる!?」
と、弦の肩口を掴むか細い指先。その、僅かに加えられた一瞬の力が、
弦の半身の力を奪う。うお!? とトキさんを締め上げていた手を離し、
その場に片膝を着く弦。
そのすぐ傍らには、弦を指先ひとつで倒した片手を伸ばしたまま、もう
片手に紅茶を載せた盆を持った蘭子が、涼しい顔をして立ち尽くしている。
トキさん「…ひとつだけ言うのなら、私たちは、本来君の前に現れる人間
ではなかった」
蘭 子「私たちは、傍観者のはずだった。あなたとこうして顔を合わせる
ことなど、ありえないはずだった。でも・・・出逢わざるを得ない事態が
起きてしまった」
会話に割り込み、淡々と語る蘭子。
蘭 子「こうなっては修正は困難ですが、あなたと私たちの接触によって、
変えられる部分から変えていくしかない。本来、私が動く必要などなかった
はずなのに…」
その表情が、一瞬だけ冷める。トキさん、片膝を着き、なおもこちらを
睨みつける弦に対し、告げる。
トキさん「では、ICONの指導者イオナ、その懐刀、黒鬼。そして私たち
…こうして君に疑問を与え、その答えを知る人間たちに君は出会った訳だな。
ではその問いにひとつずつ答えていくとしよう。まずは指導者イオナ。
彼女は、君と妹の昴ちゃん、二人にICONへの投降を呼びかけたのでは
なかったかね?」
弦 「…手前ェ、やっぱり!」
蘭 子「言った筈よ。私たちは傍観者。自分の行動は、すべて見られてると
思って答えてくれると話が早いんだけど」
舌打ちしつつ、トキさんに頷く弦。
トキさん「彼女は、こうも言ったはずだ…君と昴ちゃんに刻まれた"進化の
刻印"。そう、君が戦うべき宿命は、生まれたときから与えられたそれに
基づいている」
弦 「なんなんだ、それは?」
トキさん「君のお父上、斬馬斉一博士が君たちに与えた…ザンサイバーと
君たち兄妹を繋ぐ刻印(しるし)。そして、君たち兄妹が生きるための
願いだ」
弦 「疑問には、答えるはずじゃなかったのか」
トキさん「私からすれば、それこそが"進化の刻印"の、もっとも正確な
解答だよ。そして、黒鬼か。彼は君に、何を言ったのかな」
弦 「ザンサイバー、は…」弦の脳裏をよぎる、地下工場の爆発の炎の
中、立ち尽くす黒鬼の姿。「復活…した、と。滅びと、戦いの時代を経て、
とよ」
トキさん「そう、確かにザンサイバーが戦っていた時代はあった――
巨大すぎる力に、まっすぐな心で向き合い戦場を駆け抜けていった、
ひとりの少年が操って、ね。そして…その戦いを憶えている者は、
もういない」
弦 「黒鬼と…あんたを除いてか?」
穏やかに微笑するトキさん。
弦 「だが、そのザンサイバーを作った三枝博士は、そんなこたひと言も
言ってねえ」
トキさん「彼女が、ザンサイバーを作った、か…」何故か、可笑しそうに
笑うトキさん。「機会があるのなら、ザンサイバーの開発記録を調べてみる
といい。出来れば映像記録も込みでな。すべてはそれで判るはずだ」
弦 「ケッ…」結果として、決して満足とはいえない回答に毒づく。
「くだらねえ禅問答しに、ワケ判んねえジジィの部屋まで来たんじゃねえ
んだよ。さてそんじゃいよいよ手前ェらについて喋ってもらおうじゃねえか。
ずばり答えろ。手前ェら、一体、ナ、ニ、モ、ン、だ?」
トキさん「私は…」
どこか、自嘲めいた笑みを見せる。
トキさん「あの流星が…ブラック・スフィアが落ちてくるのを間近で見た
者さ。日本アルプスの、遺跡調査隊の一員として、ね」
○"十字の檻"
上空、浮遊しているガイオーマ。そのマントの隙間から掌を伸ばし、
地に向かってかざす。一瞬、その掌の周囲の空気が歪んだかと思うと、
施設と離れた山腹が突如爆発を起こす。見えない攻撃を受けたがごとく。
藤 岡「衝撃波だと!」
その、島ごと震わせる衝撃に揺れる中央施設指揮所、ガイオーマの
常識を外れた攻撃を前に歯噛みする藤岡。
藤 岡「ザンサイバーを吹き飛ばしたのはあれという訳か」
三 枝「それだけの威力がぶつけられているとしたら…達磨島ぐらいなら
十発ともたないでしょうね…」
コンソール席。既にガイオーマの解析を開始している三枝、猛烈な速度で
キーボードの上を指先が走り抜けていく。
優 「破導獣ザンサイバー、出て来い!」
上空のガイオーマから響き渡る、優の声。ガイオーマ、掌からの衝撃波の二発目を放つ。海岸線の滑走路を直撃。巨大爆発と共に、滑走路のあった地面に大掛かりなクレーターが穿たれる。
○ICON本拠、作戦司令室
その攻撃の様子、衛星映像にて、ボーンの目前の巨大スクリーンにも
映し出されている。
ボーン「何をしている! 柾 優、勝手な攻撃を許すためにガイオーマを
与えた訳ではないぞ!」
優の勝手な攻撃に激昂しているボーン。
一方、その司令室の隅、いつの間にか腕を組んで立ち尽くしている黒鬼。
無言でスクリーンを見つめている。
○マッサージ店二階、トキさんの部屋
トキさん「骸逢魔は封印され、君はまた新たな戦いの道を歩むはずだった。
そう、君がザンサイバーと共に戦うことは、避けること叶わぬ絶対的な
宿命。戦っていくことこそ君の進む道。それは、あまりに過酷で孤独な道だ。
だから、せめて…」
ふと、遠くを見つめる視線になる。
トキさん「そう、変えることのできない運命ならば、せめて道程を変える
ことぐらいは――ザンサイバーとガイオーマ、君と柾 優が戦う道は
なくそうと思った。そして、そのための準備を行ったのが、二十年前の
ことだ…」
意味不明でもある彼の言葉を、睨みつつも聞く弦。
トキさん「だが、そのすべては水泡に帰した。骸逢魔と柾 優、彼等と君が
戦うことはもはや避けられない。こうなってしまった以上、私たちは君と
逢わなければならなかった…」
弦 「手前ェらと俺が逢って…何が変わるってんだ」
トキさん「その問いに答える前に、ひとつだけ聞かせてほしい」
もはや、人のいい穏やかな初老の男の雰囲気はなく、理知的な口調と
姿勢をもって弦に問い掛ける。
トキさん「君は…戦えるかね? 君の親友、柾 優と」
弦 「――敵が優だろうが誰だろうが知ったこっちゃねえ!」
即答する弦。
弦 「死んだはずのあいつだ、戦えばついでにその仇も討てると思っちゃ
いたがよ、俺の前に立ち塞がるってんなら話は別だ。ザンサイバーと共に
戦うのが俺の宿命とか運命だってんなら上等、戦うための理由はある。戦い、
勝ち取らなきゃなんねえ"目的"だってある。その目的のために、敵を
片付ける程度のことで無駄な時間はかけてらんねえ、邪魔してくる奴ぁすべて
速攻でブッ潰してやる!」
蘭子の体術で力を失い、だらりとなった半身に無理やり力を入れ、
立ち上がる弦。
弦 「そう、誰にも俺の邪魔はさせねえ! それが
たとえ優としてもだ!」
吼えると、肩ごと上体を捻り、ごき、ごき、と音を鳴らす。
弦 「っしゃあ!」半身に力が戻ったのを確認し、右拳で左掌を叩き、
気合を入れ直す。「さて、いいかげんキチっとしたとこ話してもらおう
じゃねえか。いいか手前ェら…」
と、唐突に部屋のドアがバン、と開く。室内に飛び込んでくるのは…遮那。
遮 那「話の途中で悪いけれど、急用よ」
弦 「かっ、叶司令補!?」
遮 那「"十字の檻"の上空に、例の白い敵機が現れたわ。ザンサイバーとの
戦闘を要求してきている」
○"十字の檻"
昴 「いやあああっ!」
施設屋上、床面に這いつくばる格好で、施設を揺るがす攻撃の衝撃に
耐える昴。
と、さらに続く揺れ。"十字の檻"施設、ザンサイバー発進シークエンス
に。中央施設すぐ脇の発進サイロが開放され、中央施設も発射台の態勢に。
藤 岡「ザンサイバー緊急射出! あとは勝手に飼主の元まで飛ぶ!」
指揮所、指示を飛ばす藤岡。目を見張る昴の目前、閃光に包まれ、上空
へと射出されるザンサイバー。
優 「何…? 逃がすか!」
もはや"十字の檻"に興味はないと、上空へと撃ち放たれたザンサイバーを
追うガイオーマ。
○飲み屋街
弦たちのいた店のすぐ上、夕暮れの空を一機のヘリがホバリングしている。
何事かと、その爆音を上げて低空にとどまるヘリを見据えている、店の
従業員の女の子ら飲み屋街の住民たち。
そのヘリからワイヤーで垂れ下がった、ふたつの救命具に身体を通している
弦と遮那。それを、店の外に出て見送る蘭子。しかしトキさんの姿はない。
蘭 子「弦君!」
蘭子の声に、一瞬だけ彼女のほうを向く弦。
蘭 子「デート、楽しかったよね!」
弦 「なっ…?」
蘭 子「辛いこととか、苦しいこととか、いっぱいあるけどぉ、思い出は
やっぱり、楽しいほうがいいって思う!」
そこまで蘭子が言ったとき、引き上げられる救命具のワイヤー。同時、
上昇を始めるヘリ。
手を振り、ヘリを見送る蘭子。その表情は、不思議と晴れやかである。
★
二階の部屋の中、ひとり椅子に座り、ヘリの飛び去る爆音に耳を傾けて
いるトキさん。蘭子の淹れた紅茶を啜っている。
トキさん「弦君。君は…知っているんだね」呟く。「時間は、限られて
しまっていることを」
○海上上空
すぐ眼下に湾岸地帯を臨む上空、飛行している弦と遮那を乗せたヘリ。
そのヘリに向かって、海上から高速で飛来してくる影。ザンサイバーだ。
ヘリのドアを開き、パラシュートもなしに飛び降りる弦。高速でその弦に
迫るザンサイバー、掌を伸ばす。ザンサイバーの掌に飛び乗る弦。そこへ
飛来してくるガイオーマ。
弦 「優よぉッ、ソレに乗ってんのかお前!?」
ガイオーマに向かい、不敵な笑みを見せつつ叫ぶ弦。
弦 「そんなもんに乗るようになったいきさつは知ったこっちゃねえ、
ただダチのよしみもある。今後一切俺の前に立ち塞がらないってんなら
見逃してやるぜ、消えな!」
優 「貴様…」ガイオーマ、コクピットの中、ザンサイバーの掌に乗る
弦の姿に憎々しげに歯噛みする優。「貴様…弦の顔で、弦の声で喋るな!」
ガイオーマの、マントの隙間から伸ばされる掌。放たれる衝撃波。僅かに
ザンサイバーを逸れ、海面に大爆発を起こす。
たちまち、爆発的な大津波に襲われる湾岸地帯。
弦 「あのジジィが言ってたとおり…これが宿命ってかよ」
口元に浮かぶ、悟ったような笑み。ザンサイバー胸部獣面の口腔に
飛び込む弦。コクピット搭乗、ザンサイバーの双眸に光が灯る。
弦 「うおおおっ!」
もはや問答無用と、ザンサイバーをガイオーマに向かって飛び込ませる弦。
右腕の甲の電磁クロー、パイルドスマッシャーが伸びる。爪の刃に迸る
電光。
揮われるパイルドスマッシャー。だが一瞬速く上昇し、鋼爪を躱す
ガイオーマ。
優 「遅い!」
衝撃波を放つガイオーマ。ザンサイバーの背に命中、
弦 「うお!?」
二次元絶対シールドのおかげで致命傷はないものの、高速飛行中の攻撃
直撃に飛行軌道を狂わされ、真っ逆さまに海へと落下するザンサイバー。
衝撃波の余波とあいまって、巨大な水柱が海面に噴き上がる。
優 「やったか?」
だが、その水柱が再び海面に崩れ落ちる直前、落下点から撃ち放たれる、
超高熱、超高圧の爆流! ザンサイバーの頭部主砲、
エヴァパレートインフェルノだ。
優 「!」
爆流の奔流を浴びるガイオーマ。刹那、海面爆発! 背部ブースターを
噴かし、海面より頭部主砲を撃ち放ったまま急上昇してくるザンサイバー。
再び鋼爪を伸ばした腕を揮おうとする。だが、
ガッ、
そのマントの隙間から伸びたガイオーマの掌が、ザンサイバーの顔面を
荒々しく掴む。腕のリーチはガイオーマのほうが長い。
弦 「やべぇ――」
優が何をするつもりか悟る弦だか、もう遅い。直接掴んだ、ザンサイバーの
顔面に撃ち放たれる衝撃波! たまらず頭部を背面に大きく仰け反らせ、
後方へと吹っ飛ばされるザンサイバー。湾岸まで飛び、先の津波で半分沈没
した状態のタンカーの真横に背中から激突する。衝撃で前後に叩き折られ、
海上にてくの字に跳ね上がる貨物船。爆発、炎上――!
優 「最大攻撃を放つとき、最大の隙を作ってしまう…その悪癖まで弦
から受け継いだか。どこまでも忌々しい」
舌打ちする優。と、
ヒュルル…、海上に上がった爆炎の中から、何かが高速回転しつつ
飛び出してくる。
優 「!」虚を突かれる優。その高速回転する物体が、一気にガイオーマ
の、マントに包まれた胸から下を切断する――!「しまっ…!」
眼下の海面へと割れ落ちていく、ガイオーマのマント状装甲。
ザンサイバーの両肩のホルダーに収められた、形状変形金属棍
ヴァリアブルロッド。それが変化した巨大斧、戦刃クロスブレイカーだ。
それがガイオーマの虚を突く形で、超高速で投じられてきたのである。
そして、未だ炎と黒煙を大きく空に燻らせるタンカーの爆発跡、船体の
残骸を割るように立ち上がるザンサイバー。
弦 「ちょ、ちょっとは効いたぜ…」
眩暈を振り払うように、頭を振る弦。だが流石はザンサイバー、零距離で
放たれた衝撃波の直撃、そしてタンカー爆発の爆心点にいたにもにも
関わらず、その頭部もボディも、砕かれるどころか角一本傷ついてはいない。
弦 「けどよお…なるほどなあ、道理でドテッ腹に風穴ブチ開けたって
のに、手応えなかった訳だぜ」
マントを切り落とされた、ガイオーマの本体を凝視してほくそ笑む弦。
弦 「最初っから頭と手ェだけしかねえ機体じゃあ、ボディ狙ったって
意味ねえよなぁ、優よオッ!」
弦の言うとおり、マントを切り落とされたガイオーマの本体…そこには
頭から下の部分に胴体も脚もなく、両腕しか存在していない。切り落とされた
マントの中から覗く、がらんどうの本体。
優 「くっ…やはりこの姿では、ザンサイバーに致命傷は与えられないか」
炎の中に立つザンサイバーを、睨みつける優。「ならば――波動銀鳳、
封印解除!」
機体に、新たな操作を与える優。
BOW――!
刹那、ガイオーマの機体全周に放たれる強烈な衝撃波。海面が碗状に
大きく凹み、瞬時に巨大な津波が立ち上がって溢れかえる。
弦 「うお!?」
一瞬にして消し飛ぶタンカー爆発の黒煙と炎。僅かに海面に残っていた
船舶類がたまらず宙に舞い、湾岸の倉庫や建物に次々と激突していく。
津波の奔流と衝撃波に、さすがにその足元を激しく揺さぶられる
ザンサイバー。
弦 「ナ、何しやがった、優!?」
○"十字の檻"、中央施設指揮所
藤 岡「あれは…?」
ザンサイバーとガイオーマの戦闘映像。それを凝視している藤岡、三枝ら
指揮所スタッフ一同。
三 枝「まさか…次元波動! そんな!」
ヒステリックに頭を抱える三枝。
★
三枝の個人研究室。端末のディスプレイ、先程立ち上げられたままの
ザンサイバー開発記録、勝手にデータが画像と共に流れていく。遡っていく、
ザンサイバーの開発風景。
サイバー・ゼロの事故、装甲が取り付けられる前の全身フレーム、
組みあがっていく手足のパーツ、コアとなる胸部獣面の周囲に構築されていく
胴体の構造…。
○ICON本拠、作戦司令室
ボーン「ふははは…ついに封印を解き放つか、柾 優」そのスクリーンに映る
戦闘映像を前に、哄笑するボーン。「よかろう、見事破導獣を屠って
みせよ! 私が甦らせ貴様に与えた、波動銀鳳の能力に賭けてな!」
★
四方を長方形の窓に囲まれた広大な部屋。指導者イオナの自室。窓の外、
夕闇の空を見つめているイオナ。
そして部屋の片隅、影となって佇み、そのイオナに視線を向けている
白い鬼面――黒鬼。
○"十字の檻"、中央施設指揮所
三 枝「まさかICONが、私より先に擬似ブラック・スフィアを!?」
三枝の悲鳴。指揮所の奥、室内に入っている昴。茫然と、スクリーンに
映るその凄まじい戦闘の様を見つめている。
昴・M「神様は、とても残酷です」
スクリーンを凝視したまま、胸の前で手を握る昴。
昴・M「いえ、私は本心から神様の存在を信じたことなど、ないのかも
知れません。でも」
○湾岸地帯
宙空のガイオーマを見上げているザンサイバー。そのガイオーマ、
本体の"変形"を完了させている。
これまでの腕は脚となって下方に伸び、本来の顔とばかり思っていた
鬼面は腰部の前面に位置している。背後に畳まれていた上半身が起き
上がり、巨大な肩パーツが開いて、その下にひと目で攻撃力を感じさせる、
逞しく膨れた本来の腕が繋がっている。
そして、鋭い造形の本来の頭部から伸びる。巨大な一本角――。
昴・M「もし、神様が本当にいるのなら…私はこの光景に対する怒りを、
ぶつけられるだけぶつけているに違いありません」
○"十字の檻"、三枝の個人研究室
端末のディスプレイに流れるザンサイバーの開発記録、最後の画像を表示
して止まっている。
最後の画像、あちこちが焼けただれ、裂けた機械の残骸。だが、その形状
には見覚えがある。
文字表示、
「…遺跡調査隊、大気圏外から遺跡に落下したと思われる
機械体を回収」
「機械体、その内部動力の稼動を確認」
「ブラックボックス化された中枢動力系統、なお解析不明。
球状のその形状から、"ブラック・スフィア"と呼称――」
その、日本アルプスの遺跡に落下した、残骸と呼んで差し支えない機械体。
本来白いはずの鬣も黒く焼け、片側だけになっているとはいえ…まごう
ことなく、ザンサイバーの胸部の、あの獣面そのものである。
○湾岸地帯上空
宙に浮かぶ、人型に変形したガイオーマ。その肩パーツから背後に向かい、
長大な翼か飛び出す。ボーンの呼ぶ、波動銀鳳の名に相応しく、
銀色に輝く翼を広げている…真の姿のガイオーマ、"波動銀鳳・骸逢魔"。
ザンサイバーを威圧するがごとくの神々しい姿――。
弦 「なんと、また…」額に汗を一条浮かべつつ、それでも不敵に笑って
みせる弦。「ずいぶんと戦る気まんまんじゃねえか」
○街外れの国道
道の端に自分のバイクを停め、そろそろ夕闇から夜空へ変わろうという空を
眺めている、制服姿の少女、月島蘭子。その手に、何かカラフルな紙片が
握られている。
昼の強引なデートにて、弦と共に撮ったプリントシール。笑顔の自分と、
鼻穴に指を突っ込んでいる弦の写真。
蘭 子「限られた時間…だからこそ」
プリントシールを胸に抱きしめる蘭子。記憶をいとしむように。
蘭 子「思い出は、いっぱいあったほうがいい」
瞳を閉じる蘭子。
夜の闇に変わりかけている南の空。だが、その海に続く南の夜空が…
焔のごとく紅に染まっていく。
(「Destruction6」へ続く)
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