ザンサイバー 機体概要


 マニピュレーター。通常の多肢機械同様の五本指に、鈎爪状の装甲 カバーが被せられている。これは多様な兵装を使うという器用さより、 あくまで 格闘戦兵器としての本領を求められたザンサイバーの、指先ひとつまでが 武器とされている設計思想の現れでもある。

●パイルドスマッシャー
 電磁格闘鋼爪。音叉状に配された鋼爪に大電圧と微細振動を走らせる ことにより、敵機の装甲を貫通、内部からの放電にて爆砕する。

パイルドスマッシャー展開。
 


★ブラック・スフィア

 20年前、ひとつの流星が日本アルプスに落ちた。

 直ちにその落下物を回収、調査した日本政府はその概要に驚愕した。
直径50センチ、光も反射しないその完全黒球は、紛れもなく人類以外の力に よって生み出された人工物だった。そして、僅かに知りえたその機能とは… 「生命体の生体エネルギーに反応することで、異次元から無限のエネルギーを 供給する」という、まさに常識の範疇を越えた未知のテクノロジーの結晶 だったのだ。

 ブラック・スフィアと名付けられたそれを日本政府は隠匿。同時に 小笠原諸島・達磨島に専門研究所を設立、極秘裏にその研究を開始した。 だが、達磨島研究所――BSラボ創設者でもあり出資者でもある西皇浄三郎の 思惑は、まったく別のところにあった…。

●グラインド・バンカー
 超振動突出格闘兵装。パイルド・スマッシャー同様の超振動兵装 だが、脚部反撥重力システムからの重力波が威力にプラスされるため、 「杭による穿孔」というより「ハンマーによる打撃」 といった破壊力を持つ。

脚部降下用エアブレーキ(放熱カバー)。
 


★鋼の血、流れる凶獣

 時は過ぎ、ブラック・スフィア研究の成果はひとつの結実を迎えた。 すなわち、ブラック・スフィアそのものを核とした巨大人型多肢機動兵器… 破導獣・斬砕刃(ザンサイバー)完成である。

 人型多肢兵器のノウハウそのものに関しては、ブラック・スフィア解析の ための優れた技術力を有するBSラボにとって特に問題ではなかった。また、 西皇浄三郎にとって自身の野心の妨げとなる謎の組織、ICONの持つ 技術力はBSラボ側のそれに匹敵、あるいは優れたものと推測されていた (非公式ながら、ザンサイバーの各機構には、奪取したICON側の技術が 多く盛り込まれている)。今後のICON側の活動に際し、西皇としては 敵への牽制も兼ね、ブラック・スフィアを戦力として有していることを 誇示し、戦力的に優位に立つ必要があったのである。


 かくして、まさに個人の野望の道具として完成なったザンサイバーには、 単にブラック・スフィアの意次元干渉による無限動力のみならず、 ブラック・スフィア解析上得られた様々な新技術が導入されている。
 そのエネルギーを得るための異次元干渉に際し、ブラック・スフィアは周囲の 空間に若干の次元波動を発し、空間に僅かな歪みを生じさせることが発見 された。その次元波動を制御することによって、稼動時のザンサイバーは 現実空間上の重力慣性、空気抵抗などの物理的影響をある程度コントロール することが可能になっている。これが第一に、人型という形状に囚われない 自在な三次元機動力を機体に与えている。

 また、この波動を二次元平面上に 固定することにより、完全な空間上絶対平面を展開することもできる。 この"上下"という概念のない二次元上の絶対平面を、物理的に 「上から貫く」 ことは不可能であり、ブラック・スフィアを保護する枢室としての ザンサイバーに、ほぼ完璧な防御力を与えている。


 機体そのものの技術としては、全身を循環して機体の四肢を駆動させる、 液体金属によるL.M.M.S(リキッド・メタル・ムーヴメント ・システム)が挙げられる。ザンサイバーは機体内部において、人口筋肉とも 呼べる駆動シリンダー内と、パイプを介して全身に体液とも言える液体金属が 循環されている。この液体金属内にナノマシンを混在させることにより、 液体金属の硬度・流動をナノマシン側からコントロールし、それによって 全身に配され機体の四肢を駆動させるシリンダーの圧力制御を行うもの である。
 また、前述のブラック・スフィアから発せられる次元波動制御の応用も 加わり、液体金属の制御速度そのものは生物の新陳代謝をも凌駕し、生物的な 重心移動が高速で行われることで(全長20数メートルという鉄製の巨体が 片足屈伸という、複雑かつ難解な重心配置とバランス移動を実行することすら 可能なのだ)、ザンサイバーにまさに"野獣"としての獰猛な運動能力を 与えている。

 そしてまた、単純な液体金属の重点集中にて四肢による打撃の破壊力の 強化、集中させた部分の液体金属の硬化による装甲そのものの強化などにも 一役買っていることを特に表記したい。たとえ装甲が切り裂かれることが あろうと、たちどころに液体金属がその部分に充填、硬化して傷口を塞ぐ、 血小板としての機能すら有している。
 かようにその生物的な機体特性によって、ザンサイバーは単なる 人型機械の枠を越えた、まさに"鋼の血の獣"と呼べる存在として完成している のである。


 更なる機体の特殊能力として、ザンサイバー自体を基本形状とする二段階の 戦闘能力拡大形態への可変機構がある。
 多肢機動兵器という機体性質上、 ザンサイバーに汎用性の優れた人型がボディ形状に与えられたのは当然 だったが、逆にそれは(ICON側の多肢兵器との戦闘を想定した) 格闘兵器としても、また殲滅兵器としても絶対力にやや欠けているという点が 指摘された。そのため、ザンサイバーには人型の間接機構を生かした 可変機構が用意され、格闘戦強化形態及び砲撃殲滅形態という二段階の別の 顔を持つに至った。
 格闘戦強化形態においては機体は四足獣のごとき形状と なり、その姿を生かした俊敏さと機動力を存分に発揮する、まさに完全 戦闘形態として機能する。人型形態時の内臓武器が一切使用不可能になると いうデメリットも、そのパイロットの安全性すら無視されたスピードが 完全に凌いでいる。
 もうひとつの姿、砲撃殲滅形態においては機体の全身が、 自在に可動する二砲門の砲塔という形状(あたかもそれは、二首竜という キメラのごとき姿にも見える)になる。これは砲口部分に機体の発する 次元波動を収束、凝縮させて集中的な"空間の歪み"を発生させ、その"歪み" 自体を逆流的に撃ち放つものである。空間の破滅的異常という「物理的な破壊という事象そのもの」 が砲弾として放たれるのだ。これで殲滅できない 物理的存在はまずありえない、究極的な殲滅火器といえよう。

 かように過剰な戦闘能力のみならず、人間が行えるあらゆる四肢の動きと 複雑な重心移動、それら生体的能力を正確にトレースした機械による人工 生物。兵器としてはもっとも理想的な"戦闘特化機械"の完成形として ザンサイバーは地上に存在している。もはやそれは純粋な破壊兵器という 形でしか存在し得ない、すべてを破壊し尽くすためのみに生まれたまさに "凶獣"なのだ。凶獣は待っている。自らを飼い慣らし、暴れさせることの できる飼主を。その飼主として選ばれた男、それは…、

●バリアブル・ロッド
 武装可変金属棍。ナノマシンを混在されたリキッド・メタルによる 金属棍であり、ナノマシンからの指令によって様々な武装へと形状 変化する。

脚部予備ホルダー。
 


●戦刃クロスブレイカー
 バリアブル・ロッドが変化した巨大斧。

★ザンサイバー暁に出撃す

 破導獣斬砕刃、遂に完成を見たその機体は、あろうことか開発責任者で ある斬馬工学博士によって奪取され、導かれるがごとく日本アルプス山中へと 消えた。そして、プラック・スフィアに反応する生体エネルギーの バイオリズムは、その斬馬の血族が持つ物なのだ。すべての事実を 知らされることなく召喚された斬馬博士の息子、弦は、日本アルプス 山中にて途中ICONの妨害を受けながらも、政府の…西皇の思惑通り ザンサイバーに「喰われる」こととなり、そしてついにその凶獣を逆に 喰らうがごとく飼い慣らすことに成功する。その破導獣覚醒の初戦、 ザンサイバー同様の多肢機械であるICONの機動兵器"獣骸"3機を 一度に血祭りに上げ、恐るべき凶獣は初陣を飾った。
 特記事項として、 敵機も格闘戦能力を重視した機体であり、ザンサイバーに対して斧の ごとき打撃武器を使用してきたのだ。集中した運動エネルギーをそのまま 対象物に叩きつける打撃武器は、格闘戦においてはもっとも有効な武器 となる。斧という運動エネルギーをそのまま切断力とする武器の、その 刃先の直撃を受けながらも、ザンサイバーは驚くべきことに装甲表面にて逆に 武器自体を叩き砕いて見せたのである。前述の、二次元上絶対平面シールド による完璧な防御力の現れといえよう。また、武器らしい武器を一切 使用せず、3機の敵機と同等以上に渡り合えた、否、圧倒できたその 戦闘能力の高さは、まさしくブラック・スフィアを体内に孕む"破導獣"の 名に相応しい威力である。


 かくして、斬馬弦という飼主を得て破導獣ザンサイバーは発動した。だが、 その発動から始まる戦闘…ひとりの怪老の引き起こした不毛な戦いが、 人類の未来を左右することとなるのをまだ斬馬弦は知らない。

(初出/ガレージキット「破導獣ザンサイバーVer,1」 組立説明書より。02年11月改稿)
●エヴァパレート・インフェルノ
 頭部主砲(次元波動砲)。ザンサイバーの人型形態時における唯一の 大量破壊兵器。発射の際には額のセイフティー・パーツが開放される。


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