Dissolution X2―「決戦!」
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♪ぱーぱーぱーぱらっぱぱーぱぱー(イントロBGM)
ナレーション「来るべき近未来! 地球は狙われていた!」
大都市、そびえるビル群、その幾ヶ所から巻き起こる大爆発、
逃げまどう人々。
ビルのひとつを突き崩し、姿を現す巨大機械獣。
ナレーション「全世界の野球人口増加を目論む一球入魂帝国略して
ICONが、指導者暗黒大監督の号令の元、遂にその侵略の牙を
剥いたのである!」
暗黒大監督の声「行けい、野球獣ローラー獣骸! 邪魔なビルを踏み潰し、
土地を整地するのだ!」
巨大ローラーを引きずり、逃げまどう人々も立ちそびえるビルも
踏み潰し、侵攻する一球入魂帝国略してICONの野球獣、ローラー獣骸。
暗黒大監督の声「続け、草むしり獣骸とトンボ獣骸! 東京を、我等一球
入魂帝国略してICONの巨大野球場としてしまうのだ!」
ローラー獣骸の通ったあとを、野球獣草むしり獣骸が雑草を取り除き、
野球獣トンボ獣骸が手にしたトンボで地面を擦り、均していく。更に
そのあとには石灰入りの手押し車を持った野球獣ライン引き獣骸が
控えている。
ナレーション「ああっ、このまま地球は為す術もなく全土を球場と
されてしまうのか!?だが、だが、だがっ!」
かっこいいヒーロー声「戦刃っ、クロォォォスブレイカァァァーーーッ!」
轟! 唸りを上げ、高速回転しつつ飛来する巨大な斧! ブーメランの
ごとく弧を描く軌道で空を裂く戦刃が、侵攻する野球獣を
ことごとく切り裂いていく!
がしっ、数多の敵を切り裂いた戦刃をキャッチする、巨大な鋼の手、
暗黒大監督の声「むううっ、何者だ!?」
かっこいいヒーロー声「剣無き人々の願いを背負い、闇斬り砕く
怒りの雷光!」
破壊に燃え盛る街。そして、東京ドームを背に立つ、胸に野獣の
獣面を抱いた、蒼き鋼の巨体!
かっこいいヒーロー声「破導獣ザンサイバー! ――嵐を駆け抜け戦場に
見参!」
立ち塞がる多くの野球獣を前に、手にした戦刃を構えるザンサイバー。
★
Dissolution X2 「決戦! 白山運動公園野球場
その近くにあるそば屋の親父はガキの頃から知ってるけど
すげえ長嶋ファンだ!」
★
たぶんどっかの採石場でロケしてるような、剥き出しの岩肌に
メーターだののスクリーンだのが設置されてる暗くもメカメカしいホール。
日本のどこにあるとも知れないその空間こそ、嗚呼、
なんということだろう、全世界の野球人口増加を目論む
一球入魂帝国略してICONの秘密大要塞、その指令室なのだっ。
「お喜び下さい暗黒大監督。対ザンサイバー用の新しい野球獣が完成
いたしました」
一球入魂帝国略してICONの、視聴者のお母様ウケ狙い要員
イケメン幹部、マネージャー・ボーンが恭しくひざまづき報告する。
「――して、マネージャー・ボーンよ、その新しい野球獣とは?」
ひざまづくボーンを睥睨し、悪役声優飯塚昭三の声太な声マネして
重々しく告げる、一球入魂帝国略してICONの指導者暗黒大監督。
だがその顔は、全身を包むマントに隠れてよく見えない。
「ふっふっふ。これまでザンサイバーに破れた野球獣どもの弱点を
徹底的に研究し、ついに完成した最強の野球獣でございます。そして、
最強の野球獣に相応しい、最高のパイロットも」
カツン、
靴音を鳴らし、いつの間にか、ボーンの背後に立っているすらりと
したシルエット。
「その者、何者か?」
「我等が怨敵破導獣、そのパイロットに因縁深き者でございます」
「――ふっふっふっふ…ふはははははは」
今の話のどこに爆笑ポイントがあったのかはよく判らないが、とにかく
哄笑を闇に響かせる暗黒大監督…!
★
場面かわって、ここはとある高校十字檻学園。澄んだ青空の下、
学園に響き渡る放課後を知らせるチャイム。
「ねーねー弦くーん、だからぁ、今日こそ私と世界を征服しようよう」
「あーもう、蘭子さんはそればっかなんですか?」
教室をすぐ出た廊下。学生カバンと丸めた空手着を手に、部活に
向かおうとしている主人公、斬馬 弦の背後からにこにことパラノイアな
ことを言い寄っている萌え美少女転校生、月島蘭子。その蘭子の前に
立ち塞がっているのは、弦の妹、すばるだ。
「いいかげんお兄ちゃんを変な仲間に引き込もうとするのはやめて
ください。お兄ちゃん、ただでさえ日頃の優くんとのホモ疑惑がたたって、
学園中の女の子からイヤな目で見られてシカト刑状態なのに」
「あら、私はザンサイバーの威力目当てだから、別にパイロットの
弦くんがホモでも構わないのよ。第一同じホモでも優くんの方は学校中の
女の子からモテモテじゃないの」
「優くんはイケメンだから、女の子のボーイズラブ萌え本能をくすぐってる
のでいいんです。でもお兄ちゃんなんか、ヤクザ顔の筋肉バカなんですよ。
誰も少女漫画の王子様美少年の優くんと、うちのヤクザお兄ちゃんの
カラみなんか見たくないですよぉ」
「でも男のホモ本能としては、どちらかと言うと女性的な優くんを
攻めるのにハアハアになるんじゃないの? 征服欲のはけ口として
みたいな」
「えー? でも優くんって結構攻めキャラでしょ? お兄ちゃんみたいな
体育会系ってぇ、あんがい実は受けキャラになるほうが
シチュエーションとしては意外性が…」
「お前ら、人をそんなに変な仲間の一員にしたいのかっ!?」
たまりかねて怒鳴る、受けキャラの弦。「誰が受けキャラだっ!」
そのまま盛り上がる二人に背を向け、肩を怒らせながら道場へと向かう。
「あ、弦くん、ちょっと待ってちょうだい」
と、その弦を呼び止める声。振り返ると、そこに弦のクラスの副担任、
叶 遮那が隙のないスーツ姿で弦に片手を向けている。
「あ、叶先生。そう言えば今回の番外編では出番があるんですね」
「そうなのよ。私ったらクール系お姉さまってキャラだから、なんか
この手の話には絡ませ辛いみたいで配役すら適当なの。担任の先生には
既に藤岡先生がいるからって、副担任なんて中途半端なスタンスに
立たされちゃって」ふう――、と溜め息。「でも、生真面目な新任の
女教師と、不良生徒のドキドキ師弟愛スクールライフってのもなんとなく
萌えるわよね?」
「先生、萌えって台詞、キャラに合ってないです」
「あらそう? まあいいわ。そういうことで、じゃ」
と、弦の元を去っていく遮那先生。
「ううむ、何しに来たのかよく判らん。よく判らんから今日は部活サボって
帰ろう」
「あ、お兄ちゃーん、だったら買い物付き合ってよ。お米買おうと
思ってたから丁度いいや」
「あ、私もタンスと冷蔵庫買おうと思ってたんだー♪ 弦くんおねがーい
(はあと)」
なんとなく、「荷物持ちかよ!」ってツッ込みではインパクト弱いなと
思い、返答が返せない弦。
★
そうして弦は、米30キロと12個入りトイレットペーパー3包みと
タンス一棹と冷蔵庫一台、あとなぜか学生カバン三人分と空手着を
ヒーコラ担いで自宅の前まで帰り着いた。その隣にはノー荷物のすばると、
何故か蘭子がいたりする。
「で…、すばるはともかく、なんで、お前まで、俺ん家来るんだ?」
大荷物背負ってきた疲労で、息も絶え絶えに、蘭子に聞く
「あら? だって私、弦くん家に同居してるのよ」
ずがん、とタンスや冷蔵庫を背負ったまま地面に顔面を打ちつける弦。
「やだー♪ 今どき美少女と同居なんて、使い古されてるぐらいの
シチュエーションじゃない。ずっこけることないよお」
「そ、そういう設定なのか? 番外編って…」
強打した顔面を驚きに歪めつつ、嘆く弦。
ともかく大荷物を背負ったまま、玄関の扉を開ける。と、
「お帰りなさいませ、ご主人様」
メイド服姿の遮那が、三つ指付いて「ご主人様」と出迎えた。今度は
激しく後方にえび反り、背にした荷物の山を一回転して後頭部を地面に
強打する弦。
「な、なんで先生がうちでメイドさんやってんだよ!?」
「あンっ、ご主人様ったらぁーもう」困ったような顔で、弱々しく告げる
遮那。「私、このお家にお世話になってますので、教師のかたわら
お家ではご主人様のためにメイドをさせていただいてるんじゃない
ですかー」
「無理矢理すぎるだろっ、いくらなんでもそんなのっ!」
「ほらー、メイドとご主人様のぉ、侍従関係から発展する愛ってのも、
もー男の子が喜ぶ萌えシチュエーションの基本ですよぉ(はあと)」
「その上可愛い妹におさななじみの美少女まで同居だー」
にこにこと言ってくれる蘭子。
「楽しそうに言うなっ! (はあと)って言うな! 大体お前転校生
キャラだろうが、いつから幼馴染みになったんだよ!?」
ツッ込みどころありすぎで、気が狂いそうになってる弦。
「あ、頭いてー…」
「きゃっ、ご主人様ぁ、大丈夫ですかあ?」
握った両手を口元にあて、おろおろする遮那。大急ぎで台所まで走り、
コップに注いだ水を持ってくる。
「さ、ご主人様、お水を飲んで落ち着いてください」
「サ、サンキュ」
遮那の手にしたコップから、口腔にごくごくと水を注がれる弦。
と、一瞬、遮那の目線が、キラーンと鋭いものに変わる。
「ふう落ち着いた――って、う!?」
突然、腹を抱えてうずくまる弦。
「ど、どうしたのお兄ちゃん!?」
「弦くん、がっかりじゃなくてしっかり!」
「ふっふっふ、無味無臭の強力腹くだしよ。もはや足腰まともに立つ
ことも出来まい」
これまでの萌え萌えメイドさんから態度を豹変させ、うずくまる
弦の前に立ち尽くし、嘲笑している遮那。
「せ、先生兼メイドさん、古典的に一服盛りやがるとは、あんた、一体
何者なんだ…ヌゴヲヲッ!?」
腹にゲリプリピー来る感覚に堪え兼ねつつ、遮那を指差し唸る弦。
「はっはっは、斬馬 弦、今こそ兄さんの仇、討たせてもらうぞ!」
「にっ、兄さんって…ボボボボボボボォッ!?」
腸内を何かが高速で駆け回り、腹から出口にかけて強力回転で
シェイクされる異常感覚。
「忘れたとは言わさん! そう、あれは第6話『大逆転! 広東風カニ玉』
に登場した野球獣球拾い獣骸を操る刺客、彼こそは…」
「これ番外編2話なのに、『第6話』…ワワワワワワワワォッ!?」
(ここから第6話『大逆転! 広東風カニ玉』回想)
いきなりだが、ザンサイバーを追いつめてる野球獣球拾い獣骸。
「ふははははっ! 破導獣ザンサイバー、今日が貴様の撃沈記念日
じゃああっけん!」
哄笑するパイロット(実は遮那の兄)。その頭には、自らの戒名が
書かれた位牌が、白い鉢巻にて巻き付けられている。自機、球拾い獣骸の
手に持たれた白球を、感慨深く見つめるパイロット。
「ウゥ…球拾い生活25年、ついに、表舞台で花咲く日が、ワシの元に
来よったの〜〜〜」キッ、とザンサイバーに再び視線を返す。「裏方一筋
25年、下積みに下積みを重ねた、ワシの舞台の最後のひと幕じゃあ
〜〜〜っ! 航空母艦破導獣ザンサイバー、撃沈じゃぁ〜〜〜!」
その、最後の一球に、自らの全身全霊を乗せるパイロット! 大きく
振りかぶり、場外から白球を投げ放つ球拾い獣骸。長距離から放たれた、
超高速の白い弾丸がザンサイバーを強襲する!
ズガァァァーーーンッ! 巻き起こる爆発。この瞬間、遮那の兄は、
まさにザンサイバーに勝利したのである。
だか、渾身の一球を投げ終え、コクピットから降りた遮那の兄の姿は
――。
ガガーン! なんと、顔中にシワが刻まれ腰もヨレヨレ、頭も
総白髪となって、すっかりじいさんと化してしまっているではないかっ!
「はて、わしはなんでこんなところにおんじゃろ? これは一体
なにかの??」
ボケボケと、頭中にクエスチョンマークを浮かべながら、共に戦い
抜いた相棒、球拾い獣骸の巨体を見上げる遮那の兄。
嗚呼、なんということだろう。全身全霊を乗せた最後の球が、遮那の兄の
気力も生命力もすべて奪い尽くし、戦い終わった遮那の兄を、その肉体
から脳天に至るまですっかりボケボケ老人化させてしまったりしてた
のであるっ!
最愛の妹が待つベンチへと戻る兄。それでも、帰ってきた兄と視線を
合わせることなく、呟くように言う遮那。
「兄さん、うちは、忘れまへんで〜〜〜。あんたっちゅうサムライが
おったことを」
「はて、なんのことでっしゃろ?」
「ええ余生を送りなはれや…」
「はい、どもおおきに」
ひょこひょこと、戦場から去っていく兄の姿を直視できず、ひそかに
涙を流す遮那。
「なのに、あなたは続く第7話『愛と裏切りの昭和ブルース もう
たい焼きの季節じゃなくなったなあ』であっさり地獄の特訓の末に
復活してくれて! おかげで兄さんがボケボケおじいちゃんになったのは
完全パーペキにムダって一球入魂帝国略してICONの中でもすっかり
笑い話なのよ! しかもボケた兄さんのおしめ替えたりお尻拭いたり
お雑炊食べさせたりするのも私の役目なのよ! ちくしょーこの若さで
長男の嫁になんかなったもんだから、嫁ぎ先のボケた姑の介護任されて
しまった嫁みたいにされた怨み、たっぷり思い知らせてやるわっ!」
「あ、もう回想終わったんだ。――おにいちゃーん、終わったって」
回想シーン混じりで熱弁する遮那の傍らで、手にしたケータイでメール
のやりとりしてたすばるが、家の奥の方に向かって叫んだ。
じゃーっ、ごぼごぼごぼ…、
トイレの扉の奥から水を流す音が響き、ふらふらと、すっかりやつれた
顔で出てくる弦。
「も、もう出るようなハラの中身、なんにもねーぞ…」
こてん、と、トイレの前でぶっ倒れる。
「あらあらー、弦くんご苦労様」その弦の前に、なにやら湯気を立てる皿を
置く蘭子。「おなかすいたでしょ? ハイ広東風カニ玉。卵とフライパンが
あれば簡単に出来るんですよー」
「うー、ンな腹に重てえモン、出してくるんじゃねえ…」
「――って、聞いてなかったわねあんたらー!」
自分で話なんか聞けない状態にしておいて、怒り出す遮那。
「こーなったら野球獣で踏み潰してやるわ! サモン、野球獣
スコアラー獣骸!」
「って、いきなりメカ戦かよ!? 展開が唐突すぎるぞ!」
「ザンサイバー本編でも、あんがいそんな感じだと思うけど…」
蘭子がいらんツッ込みしてる間にも、飛来してくる今週の野球獣
スコアラー獣骸。右手にシャーペン、左手にクリップボードと、
強力そうな武装を持った野球獣だ。
ここで「ぼくの考えた野球獣コンテスト」開催。優勝作品はまた
番外編書く「ことがあったら」、劇中出てくる「かもしれない」
ぞ! どんどん応募しよう。
「さあ出てこい! 破導獣ザンサイバー!」
スコアラー獣骸のコクピットに乗り込み、叫ぶ遮那。もちろん服装は
メイド服から、プラグスーツっぽい身体のラインがモロに出てる
恥ずかしいパイロットスーツに着替えている。
「戦闘服萌え傾向の人のハートもガッチとキャッチ♪」
「もうやるっきゃねえな! ザンサイバー、出動ォッ!」
右手に取ったケータイを、大きく天に掲げる弦。別に意味はないが、
なんとなく変身アイテムで呼ぶみたいでかっこよかった。
とにかくその間にも、ザンサイバー基地である十字檻学園の校舎が変形し、
地下のザンサイバー発進サイロが顕わになる。
「ザンサイバー、発進せよ!」
放送室が変形した指令室にて、発進指示を飛ばす藤岡司令官。
もちろん普段は弦のクラスの担任の保体教師だ。
とにかく発進サイロから次元波動の閃光を噴き上げ、出動する
ザンサイバー。どうせ弦の家の前で戦うのですぐ到着する。
「剣無き人々の願いを背負い、闇斬り砕く怒りの雷光! ――
破導獣ザンサイバー! 嵐を駆け抜け戦場に見参!」
コクピットに乗り込んだ弦の操作を受け、口上と共に決めポーズを
取るザンサイバー。機体から余剰エネルギーがX字を描いて放電され、
大出力によるバックファイヤーが背後で大爆発を起こす。
「演出効果過剰ですねー」
「本編じゃ、こういうの世界観が違うって嫌がってたのに」
ザンサイバー基地指令室にて、オペレーター制服に着替えた蘭子と
すばるが呆れたように言う。番外編ではこの二人もヒーロー側の重要
スタッフなのであった。
「兄さんの仇だ! 死ねい破導獣!」
「てーか俺、一方的にやられただけだし別に殺してねーし!」
とにかくザンサイバー対スコアラー獣骸の決闘は始まった。どうせ
番外編なので本編みたいなネチネチした戦闘描写は省いて、
さすがにマネージャー・ボーン自慢の野球獣らしく、その驚異的な
戦闘能力の前に装甲をズタズタにされ、危機に陥るザンサイバー。
「ぐわあああああっ!」
大ピンチ、悲鳴を上げる弦。
「くっ…ザンサイバー絶対の盾、二次元絶対シールドが、こうも
簡単に破られるとは…」
苦渋の表情で唸る藤岡司令官。自分の出番が少ないもんで、数少ない
台詞を言う時リキ込めている。
「このままじゃお兄ちゃんが、お兄ちゃんが死んじゃう!」
「弦くん、しっかりして弦くん!」
すばるや蘭子まで悲鳴を上げる中、倒れたザンサイバーの横顔を、
ヒールで踏みつけるスコアラー獣骸。
「ほーっほっほっほ! おしまいねぇ破導獣ザンサイバー!」
ヒールをぐりぐりさせる。
「うぐぐ…ただでさえホモ疑惑が晴れないのに、このままではM疑惑まで
持たれてしまう…」
弦が馬鹿な心配した、まさにその時、
「――待てっ、そこまでだ!」
ドカーンッ! ちょっと待ったコールと共に放たれた攻撃が、
ザンサイバーの上のスコアラー獣骸を一撃の元に吹っ飛ばす。
「くっ、何者だ!?」
と、戦場の黒煙渦巻く空に迸る閃光。黒い空を割り、降臨する、
銀翼の白き巨体――、
「波動銀鳳、ガイオーマ降臨! 貴様などに弦はやらせん!」
「一球入魂帝国略してICONの裏切り者、柾 優か!」
遮那、苦々しく唸る。
「弦は僕の獲物だ…そう、弦を我がものとするために僕は一球入魂帝国
略してICONを裏切り、孤独なまでにひとり戦う、孤高の白銀の騎士と
なったのだ!」
「またこんな設定かよっ!?」
「さあ弦、いまこそカモナマイチェストっ!」
「うう、助けてもらったのに嬉しくないなあ…とにかく今は奴をぶっ飛ばす
方が先だ!」
「よしっ、行くぞ弦!」
僕らの日本を守るため、夢の二大ヒーローが手を組んだ。でも
スコアラー獣骸は、最強の野球獣とか言われてるだけあってやっぱり
強かった。必殺の大気圏突入ダブルキックも破られ、またも窮地に陥る
ザンサイバーとガイオーマ。
「二体もろとも、地獄へ落としてくれるわ」
すっかり悪役台詞が板に付いてる遮那。スコアラー獣骸が、手にした
シャーペンの尻をカチカチ鳴らし、その先端から黒い芯を延ばす。
「ち、畜生…負けて、負けてたまるかよ」
傷だらけの機体を、立ち上がらせる弦。
「弦、お前は…そんな身体になって、なおも戦うというのか…」優、
その弦の闘志に、深く感銘を覚えた。「よし、弦…このガイオーマの
機体に秘められた秘密を開放する」
「ガイオーマの、秘密だと?」
「ザンサイバーとガイオーマは、共にブラック・スフィアを孕んだ
兄弟ロボだ。そしてこの二機は合体し、銀河創世伝説に伝わる世界の
終わりの救世主、凱王斬砕刃(ガイオーザンサイバー)となるのだ!」
ガイオーマに隠されていた合体データを送信する優。
その合体データを解析し、すばると蘭子が驚嘆する。
「す、凄い! 単体時の10倍以上のエネルギーゲインがある!」
「必殺武器は銀河斬砕剣…この破壊力があれば、日本列島も沈没させられる
!」
「そうか、今回は2号ロボとの合体パワーアップ編だったのか!」
今さらながら気付く藤岡司令官。
「合体エネルギー、開放ォッ!」
「パワァァァァッ、全開ィィィッ!!」
発動する合体システム! ザンサイバーとガイオーマ、二機から炎の
ごとく噴き上がる合体エネルギー!
「うおおおおおおっ!」
「はああああああっ!」
互いに駆け寄る二機! 二人の叫びがハモる。
「破導ォォォ、合体ィィィィッ!!」
合体フォーメーションに入る二機!
互いに向き合った体勢から、ザンサイバーがガイオーマに
背を向ける。
ザンサイバーが前方に上半身のパーツを折り、獣のごとき手足を
地に付けた体勢になる。
ガイオーマが前方に手を伸ばし、そのザンサイバーの背後から、
ブースター全開で超高速接近する――、
どたどだどた…、
その、合体フォーメーションのために後方から腰部前面を突き出し
高速で迫るガイオーマから、必死で逃げ出すザンサイバー。
「あっ、弦、何をしてるんだ! 合体フォーメーションが崩れて
しまうぞ」
「やかましい、やっぱりお前との合体は絶対嫌だ」
「あっ、あっ、そんなこと言わないで! なんなら別の合体
フォーメーションもあるんだ! お前の方から僕に――ハアハア」
「そのハアハアはなんだーーーっ!?」涙を流して逃げ回る弦。
「うぎゃああああっ! 絶対嫌だ! 断る拒否する勘弁してくれぇっ
!」
「お前らえーかげんにせぇーーーっ!!」
バコォーン! すっかり忘れられてた、スコアラー獣骸の怒りの
クリップボード張り手が炸裂した。
「ひょんげ〜〜〜!」
ぶっ飛ばされ、地に転がる二機。
「ええい、ムダに長々テキストを使ってくれて! もうここで終わりに
してやるわ!」
怒りの遮那の操作を受け、スコアラー獣骸がシャーペンを構える。
「スコアラー獣骸究極必殺技、芯を延ばしたままのシャーペン人に
向かって投げぇーーーっ!」
スコアラー獣骸が大きく振りかぶり、そのシャーペンをザンサイバーに
向かって投じる! しかもスコアラー獣骸愛用のシャーペンは、
精密図面用の0.2ミリ芯の高価なやつなのだ! こんなん芯延ばしたまま
投げられて刺さったら、本気でマヂヤバい!
「きゃああああああっ!」
すばる、絶叫、
投じられたシャーペンが、狙い違わず、ザンサイバーの胸部獣面、
そこに位置するコクピットに向かって高速で迫る――!
ズブゥゥゥゥッ!!
「むっ!?」
藤岡司令官が低く唸る。
「あああっ!?」
すばると蘭子が目を見張る。
「なっ、何!?」
遮那が驚嘆する。
その、投じられたシャーペンを、コクピットに突き刺さるギリギリの
ところで、受け止めているザンサイバー――!
だが、
「そこまでは良かったな…」
悪役らしく、薄く口元に笑みを漏らす遮那。
そう、スコアラー獣骸の放ったシャーペンからは、“芯が伸ばされて
いた”のだ。シャーペンの先端から伸びた芯が、ザンサイバーの装甲に
突き込まれ、コクピットの中まで届いている…!
…だか、だが、だが!
「ぐぉの…野郎ォォ…」堅く噛み締めた歯を軋ませ、唸る弦。「舐めて
くれんじゃ…ねェんだよォ…」
コクピットの中、その視界スクリーンを突き破り、刺し込まれてしまって
いるシャーペンの芯。だが、自身の肉体を突き破る寸前、弦の両手も
またその突出してきた芯を掴み、止めていたのだ。
さすがに無事とはいかず、弦の腹にも芯は約3センチの深さまで
突き刺さっている。だが、元より鍛え上げられた弦の肉体にとって、
たかだか3センチの刺し傷など傷と呼ぶレベルではない。
「ぐおォォォォォォォッ!」
ずぶり、芯を掴んだ両手に力を込め、力任せに自分の腹に刺さった芯を
押し返す弦。そして、ザンサイバーの手もまた、自体に刺さった
シャーペンを胸部獣面から抜き取る。
「馬鹿な!?」絶叫する遮那。「たかだか書き殴りのしょーもない番外編
なのよ! ここまで書くのにマジ半日も時間使ってないのよ! それなのに
なんで、わざわざそんなに本編並みにリキ入った戦況逆転の描写をッ!?」
「説明しよう!」少ない出番は逃さんとばかり、ずずいとしゃしゃり出る
藤岡司令官。「実はコクピットの中まで敵の攻撃が届き、ザンサイバーと
弦が同時に受け止めるというアクション描写は本編でやろうと思って
メモっていたネタだったのだが、本編では二次元絶対シールドが
マジ無敵すぎてなかなか使えずじまいにいたのだ!」
「そんなもんをお馬鹿番外編に持ってくるな〜〜〜っ!」
泣き出す遮那。だが、こうなると本編並みにマジになったザンサイバー
は止まらない。スコアラー獣骸に向かって、逆襲を仕掛けるべく
駆け出すザンサイバー!
「こんなお高級な文房具、貧乏人には使いづらいんでよ…」
コクピットの中、うすら笑いすら浮かべ、歯を剥き出す弦。機体の右手に
持ったままのシャーペンが、加えられた握力をもってたやすく
握り潰される。
「返すぜ、受け取りなッ!」
揮われる、右の一撃――! 握り潰されたシャーペンが拳の中で
砕け散り、その鉄拳の一撃が、スコアラー獣骸の右肩を爆砕、付け根
から右腕を千切り飛ばす!
「オラァッ!」殴り飛ばした勢いを止めず、左脚を振り上げる
ザンサイバー。「グラインドッ・バンカァァァァッ!」
DOM!
ザンサイバーの膝装甲に仕込まれた、長方形ブロック状の突出武器が、
ザンサイバーの全体重を乗せ射出、スコアラー獣骸の腹に風穴を
ブチ開ける!
これぞ超振動突出格闘兵装グラインド・バンカー。ザンサイバー
本編にもまだ登場してない武器の初お披露目だ!
「だからお馬鹿番外編でそんなもん出してくるな〜〜〜」
遮那の泣き言ももう通用しない。
「よし! 必殺兵装、主砲発動承認!」
ここが見せ場だ! 気合いを入れて指令する藤岡。
「了解! 主砲バイモートクラスター、システムロック解除!」
蘭子のしなやかな指先がコンソールパネル上を走る。
「オオオオオオオオッ」
機体に収束するエネルギーの高まりを感じ、拳を固めるザンサイバー。
機体を中心に空間に歪みが生じ、プラズマ化した余剰エネルギーが機体の
各部から火花を散らす。
指令室、すばるのコンソールパネルの上に出現する、ザンサイバーの
視界を捉えた立体映像。その映像の先にあるのは、今まさに最後の
処刑執行を待つばかりの敵機、スコアラー獣骸の姿だ。
「インフェルノ・デシジョン!」
すばるの伸ばされた掌が、立体映像中の敵機を叩く。同時、
ザンサイバーの中枢ブラック・スフィアと密接な関係を持つ
〈進化の刻印〉たるすばるの、最終ロック解除コードがザンサイバーへと
送信される。
目前の敵を叩け! と――、
「エヴァパレェェェトォッ・インッ、フェルノォォォォッッッ!」
頭上でX字に交差させた手を、大きく開くザンサイバー。額の
ロックパーツが左右に開放され、放たれる、ザンサイバー必殺の主砲
エヴァパレート・インフェルノ!
撃ち放たれた閃光の爆流が、処刑執行の咆吼と共に敵機を、
真白い超高熱の炎の中へと呑み込んでいく…一瞬の瞬き、敵機蒸発の合図。
処刑、執行完了――。
オオオーーーンッ!
閃光が晴れた中、勝利の咆吼を上げる、ザンサイバーの胸部獣面。
★
「よ、よもや最強の野球獣が破れるとはっ…」
一球入魂帝国略してICON本部。言葉を震わせ、すげーがっかり
状態のマネージャー・ボーンを尻目に、決意を固めたように天井を仰ぐ
暗黒大監督。
「破導獣ザンサイバー…もはや捨て置くことままならぬ怨敵」ばっ、と
マントを大きく広げる。「姿を現せ――天、地、人、影! 内野四大鬼王
!」
「なっ…内野四大鬼王!?」
その名に、激しく驚愕するマネージャー・ボーン
フフフフフ…、
キヒヒヒヒ…、
その暗黒大監督の呼び声に応えるがごとく、ホールの四方から、
漏れてくる忍んだ笑い声。カツン、カツン、と靴音を響かせ、闇の中、
四方から集まってくる四人の男。
やがて、ホール内のスクリーンやメーター類からの僅かな光が、四人の
シルエットを浮かび上がらせる。
「…影が三塁手、黒鬼、見参」
「…天が投手、斑天一郎、見参」
「…キヒヒヒ、地が一塁手ゥ、斑地二郎ォゥ、けーんざーん」
「………」
「…フッ、人が捕手、斑人三郎、だそうだ」
無言の巨漢、斑人三郎に代わり、薄く笑みながら天一郎が告げる。
「――待っていたぞ、内野四大鬼王!」集まった四人の現人鬼を前に、
宣言する暗黒大監督。「貴様等の敵はただ一騎、我等一球入魂帝国
略してICONの、健全たる野球精神の前に立ち塞がる怨敵、
破導獣ザンサイバー! 貴様等鬼の狂気をもって、破導獣を果てなき
野球地獄へと堕としてやるがいい!」
そのマントの下――美女たる姿を顕わにする暗黒大監督。だが、その、
その顔は…!
★
赤く染まる落陽の空、夕日を浴びる十字檻学園の校舎に、校門の閉門
時間を告げる「遠き山に日は落ちて」のメロディーが鳴り響く。
指令室での仕事を終え、すばると蘭子は今まさに校門から帰宅の途に
つこうとしていた。途中、すれ違った校長先生に挨拶する二人。
「校長先生、さよーならー」
「はいさようなら、気を付けて帰るのよ」
と、にこやかに振り返る、まだ若き美女の校長、イオナ先生。
だがその顔は――一球入魂帝国略してICONの、暗黒大監督
その人でわないくわっ!
★
戦い終わって、弦はさっさと病院に担ぎ込まれた。一応腹の刺し傷
3センチと、あとコクピットに穴が開いた状態で主砲なんか撃った
もんだから高熱がモロにコクピット内に入り、当然のごとくヤケドを
負ってしまったからである。
「で、なんであんたは平然と生きてんだよ!?」
「うん、お約束で機体がやられる寸前に脱出したから」
全身包帯だらけでベッドに横たわる弦の前で、平然と抜かしてくれる、
ストライプのシャツとスカートに白いエプロンという、準看護士の
姿の遮那。
「そして、今は敵味方の憎しみを越えて傷ついた弦くんを手厚く看護する
白衣の天使なの――ってもまだ見習いなんだけれど、半人前の
見習い看護士さんと患者の、信頼関係と淡い交流から生まれるほのかな
想いってのももう萌え萌えでしょう?」
「萌えない! ぜってー萌えたくない!」
「その通りだ! 弦に萌え〜なんて台詞は似合わないぞ!」何故か
偉そうに、優が言った。「弦に似合うのは男と男の、愛情をも越えた
熱い友情と流れる血潮だけだ! そうだよなあ弦?」
「言いつつベッドに潜り込んでくるなっ! だいたいなんでティッシュの
箱片手に持ってやがんだ!」
「まーとにかく弦くん、早く元気になってね。そしてザンサイバーを
使って私と一緒に世界を手玉に取ろうね♪」
「お兄ちゃん、着替えだけど私パンツの洗濯まではヤだから、自分で
病院の洗濯機使ってよね。あと入院中退屈しないよう、お兄ちゃんの
部屋のベッドの下に隠してあったエロ本持ってきたよ」
「だああ手前らっ、好き勝手抜かしてやがんじゃねーっ!」
もはや泣くしかない弦。
「そもそもあんた、今回いったいなんなんだよ」ぶすっ、とした視線を
遮那に向ける。「前回の番外編で出番がなかったからって、今回ここまで
自分のキャラ捨ててイロモノ役に走らなくても…」
「ふっふっふ…一見いい加減な役と思うでしょう弦くん。しかし違うのよ」
わざわざ自信満々な顔をする。「ほーっほっほっほ、今回はズバリ私が
主役だったのよ! 前回の番外編での予告で宣言したとおりにね!」
はあ? という顔になる一同。
「ある時は純真な見習い看護士さん。またある時は生真面目な新任
女教師、またある時はご主人様の心を癒すメイドさん、またある時は
戦闘服の似合う女パイロット、しかしてその実体は――」
さっ、と大振りなブレスレットが巻かれた左手首を掲げる。なんだか
知らないが、赤、青、黄色、緑色、ピンク色の五色の模様が入った――、
ぽん、と手を打つ優。
「そうか、戦隊で年に一度はやる、ピンクの七変化話――」
「やめれーーーっ!」
弦の絶叫。
病室の中、閃光を放つ、遮那のブレスレット…。
★
すまん、おわる。
(さて今回、「だが」は何回出てきたでしょう?)
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