Destruction3―「鼓動鳴響」


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○回想、白い世界
幼い子供の声「泣いてるの…?」

 幼い手が伸びる。
 周囲のもの何もない、何処までも白い、白い空間。その、伸ばされた 幼い手が、青い"何か"の、板状の表面に触れる。
 グルル…、獣の声にも聞こえる、低い唸りが響く。

 幼い子供の声「どうして、そんなにかなしいの? …苦しいから ? つらいことが、あったから?」

 幼子の、喋る口元、アップ。

 幼い子供の声「ひとりぼっち…だから?」

 その小さな手が、いとおしげに青い表面を撫でる。

 ドクン…、

 ふと、幼い掌に、伝わってくる鼓動。

幼い子供の声「…よしよし、もう泣かないで。大丈夫、だから…そうだ」

 幼子の口元、にこり、と明るくなる。

幼い子供の声「それじゃあ…家族がいれば、ひとりぼっちじゃないもん、 さびしくないよね。だから、もう泣かないでね」

 そっと、その青い表面に口付ける。

 ドクン、ドクン…、

 冷たい、鋼の表面から伝わる、確かな鼓動、

幼い子供の声「どきどきいってる…可愛い」幼子の微笑。「じゃあね、 すばるがお嫁さんになってあげるから」

 画面、引く。白い空間の中、明らかになるその情景。頭を垂れ、 低く唸る、巨大な"竜"のシルエットと、その鼻頭を撫でている幼い少女――。

○日本アルプス上空、ヘリ内
 昴 「あ…」

 ぼんやりと、目が開く昴。
 バババ…、わずかに響くローター音。窓から覗く、白い風景。深く雪を 被った山々の峰。飛行している兵員輸送ヘリ。だが、その中にいるのは昴と、 そのちょうど真向かいに座り、唇をきつく結んでいる遮那の二人だけ。

 額にわずかに汗を浮かべ、えへへ…と愛想笑いを浮かべる昴。
 窓の外に視線を移す。その視線を横切る、飛行中のザンサイバー。

昴・モノローグ(以下M)「夢を、見ました。他愛もない、幼い約束の夢」

 昴の視線、ヘリを追い越していくザンサイバーの姿を追う。

 昴・M「あれは、いつ交わした約束だったでしょう。でもその時私は、 そんな夢のことなどすぐに忘れるような景色に目を奪われていたのです」

 昴の視線の先――あの、直径2キロの真白いドーム。その周囲は、 先日までドームを厚く包み込んでいた、崩れ落ちた土砂と氷によって 囲まれている。
 その上空を周回している数機のヘリと、麓に集まっている幾つかの キャンプ。作業用車両の姿も数台見える。既に土砂の撤去作業も始まり、 整地された場所も幾つか見える。

○ドーム麓、臨時指令所テント
 すぐ上空を横切っていくザンサイバー。それを見上げる、防寒服姿の 藤岡司令官と三枝博士。

藤 岡「来たか…」

○ICON本拠
イオナ「そうですか…」

 室内の全景も掴めない、暗い部屋。スポットライトに照らし出されて いるがごとく二人の人物だけがいる。
 美貌のICONの指導者イオナと、その直属の配下、美しい金髪と白い肌。 透き通ったかの目線の青年サイレント・ボーンストリングである。

ボーン「ザンサイバーに斬馬 昴と弦の兄妹。そして三枝博士に、 我らが仇敵、藤岡も残らず"遺跡"に集まっております。今こそ千載一遇の 好機と――」
イオナ「ボーン」
ボーン「は」
イオナ「まさに、最後の好機と思いませんか…血を流すことなく、物事を 終わらせる最後の好機と」

○サブタイトル 「Destruction 3 ― 鼓動鳴響」

○ドーム調査隊、臨時司令所テント
 テントの中でひたすら端末に向かい、ディスプレイ上の情報に目を 走らせている三枝。その外、慌しく何人もの作業員が駆けずり回る中、 藤岡、双眼鏡を手にドームを見つめている。その双眼鏡越しの視線の先、 ドームに向かって近付いていく、歩くザンサイバーの背中が映っている。

○ドーム外壁付近
 ドームのすぐ付近、砕け落ちた岩盤の大地を踏みしめ、ドームに近付く ザンサイバー。その掌にはそれぞれ右手に昴、左手に遮那が乗っている。 ひええ、とザンサイバーの指にしがみついてる昴。

 昴 「落としたり、挟んだりしたら承知しないからね!」
 弦 「うっせえぞ。叶司令補、なんで俺たちだけで 来なきゃならねえんだ?」

 コクピットの中、操縦桿を握りつつ、左手の上の遮那に語りかける弦。

遮 那「三枝博士の考えよ。直径2キロ、その構成素材はまったく不明。 きわめて強固な外壁を持ち、そこには一切の継ぎ目も入り口らしきものも なし。あらゆる工作機械をもってしても穴ひとつ開けることは不可能…」
 弦 「ザンサイバーで、壁をぶっ壊せってのか?」
遮 那「ザンサイバーの元である流星はこの遺跡に落ち、そして、斬馬博士 に奪われたザンサイバーはこの地に降り立った――。ザンサイバーの接近が、 この遺跡に何らかの影響を与えるはず」
 弦 「それはそうと、なんで昴まで引っ張り出す必要があるんだよ」

 その言葉に、ん? となる昴。

遮 那「忘れないで。貴方たちだけがザンサイバーを動かせる」

 思い起こす昴。前回、暗殺者斑(まだら)地二郎の手を逃れて ザンサイバーのコクピットに飛び込んだ兄と自分。その自分たち二人の 目前で、コクピットに"喰われる"という形で消化された地二郎。

遮 那「貴方たちもまたドームに何らかの影響を与えるかもしれない、 ということよ」
 弦 「ざけやがって――」

 コクピットの中、後方を降り向く弦。
 複雑な顔をする昴。そして、近付いてくるドームを見上げる。

 昴 「おっきぃ…」
遮 那「この"遺跡"自体の存在は、かなり前から推論され続けていたわ」
 昴 「遺跡、って…これ、大昔のものなんですか?」
遮 那「20年前にも一度、調査隊が組織されたわね」
 昴 「なんで、今日までそれが放って置かれていたんですか」
遮 那「宇宙に向かって、何らかの信号がこの地点から放たれ続けていた… それは遥かな昔から。でも、それを証明する物証は何もなく、考古学見地 からもカルトまがいの学説として見向きもされていなかった」 にこりともせず、淡々と続ける「…類人猿から人類へのミッシング・リンク の謎を解く聖地、なんて説まで唱える学者もいたわね。そしてもうひとつ」

 眉をひそめる。

遮 那「20年前…ここに流星が落ちた。ザンサイバーの元になった、 地球以外の異文明の技術による機械体」

 は、となる昴。
 フラッシュバック。前回冒頭、20年前、この山を訪れた調査隊の目前に 落ちる流星と、目を見開く調査隊メンバーのひとり、時実(ときざね)――。

遮 那「そして調査隊は、その流星が落ちる瞬間に遭遇した――」
 弦 「んで、遺跡とやらの存在は後回しに、皆さん大喜びで親父を 引っ張り出して、ザンサイバーなんざこしらえた訳かよ」

 皮肉交じりに、告げる弦。

遮 那「面白い話じゃなかったかしら?」
 弦 「別に。ただここんとこ藤岡のおっさんにシゴかれっ放しだしよ、 日本アルプスに行くってんで、いよいよ親父を捜すのに本腰入れるのかとか 思ってたら…」
遮 那「――ここよ」

 遮那の声に、脚を止めるザンサイバー。すぐ間近のドームを見上げる。 真珠のごとく白いドームの表面が視界いっぱいに広がる。

 昴 「…何あれ?」

 そのドームの表面、何かに気付く昴。
 昴の視線の先、真珠のごとくなだらかなドームの表面に、唯一 刻まれている傷がある。真正面から見た、咆哮を上げる獣面を刻んだが ごとき傷跡。

遮 那「あれが、20年前…流星が落ちた、その落下点よ…」 フラッシュバック、白い山肌 に、流星が落ちる瞬間――、「弦君、昴さんを表面に近付けて」

 い? という顔になる昴。

 弦 「大丈夫かよ…?」

 訝みつつ、指示どおりザンサイバーの右手をドームの表面間近まで伸ばす。

 昴 「わわわっ、ちょっ、心の準備…!」
遮 那「大丈夫。素手で触れても平気なのは確認できてるわ」昴に声を かける。「触ってみて、もし、何かあるようなら教えて」
 昴 「な、なにがあるって言うんですかぁ!」

 ザンサイバーの指にきつくしがみつき、泣きそうな顔になる昴。それでも、 本当に手を伸ばして届く位置まで来たなだらかな表面に、恐る恐る手を 伸ばしてみる。

 昴 「うええ〜ん…」

 泣き言を垂れつつ、白い表面に…その手が、触れる。

 ドクン――、

 触れた手の先から伝わる、一瞬、撥ねる鼓動。
 は、となる昴。
 ドクン、ドクン――、
 なおも、手の触れた先…ドームの白い表面から響いてくる鼓動。

昴・M「…なに? 心臓の、音…?」

 いつの間にか、手を離せなくなっている。

昴・M「…遺跡が、どきどきいってる…? 私の心臓じゃないのに…」呆、 とした表情で、ドームの上方――件の、獣の顔のごとき衝突傷を見上げる 「私の胸に…心臓が、ふたつあるみたいに…」

 瞬間、
 ドオッ、突然、ザンサイバーの足元の地面が弾ける。そこに唐突に開く、 ザンサイバーがすっぽり収まるような大穴。

 弦 「うお!?」
 昴 「うひゃっ…!」

 巨大な掌の上で尻餅をつきつつ、大慌てで再び指にすがりつく昴。
 どうしようもなく、どどど…と大穴に滑り落ちてしまうザンサイバー。 地面にわずかに首が覗く状態で、そのまま大穴に嵌まり込んで止まる。

 弦 「つつ…落とし穴かよ!?」奥歯を噛み鳴らす弦。「ざけやがって、 誰が――」

 その弦の目が、驚愕で見開く。目前の視界スクリーンに、べったりと 張り付いている人影。

 弦 「…笑えねえぞ」

 言いつつ、顔を引きつらせる。
 地面にわずかに突き出たザンサイバーの頭部。その顔面に張り付いている 人影、ひぇひぇひぇひぇひぇ…! と狂気じみた哄笑を上げる。
 前回、ザンサイバーに喰われたはずの暗殺者、斑三兄弟次男、斑地二郎で ある――!
 そして、それぞれ昴と遮那が必死でしがみついたザンサイバーの両手、 そこに取り付き、昴と遮那にそれぞれ武器を向けている、痩せぎすの長身と 大柄な巨漢の二人、
 斑三兄弟長男、斑天一郎と人三郎である。

○ドーム調査隊、臨時司令所テント
藤 岡「叶、どうした叶、応答しろ」

 慌しい雰囲気のテント。三枝を中心に、何人かの調査隊員が端末に向かって 作業を行っている中、藤岡、通信機に向かって語り続けている。その 呼びかけに対し、応じることのない無線機。

三 枝「ザンサイバーの反応は?」
調査隊員「未だドームの、流星落下点の外壁付近にとどまったままです」
三 枝「じゃあ、何で連絡がつかないというの」
藤 岡「何かが、起きた」
三 枝「何か…?」
藤 岡「博士、貴方の意見を尊重したつもりだったが、やはり調査を 急いだのは失敗のようだ」
調査隊員「さすが藤岡司令官。賢明な判断です」

 その言葉とともに、三枝の隣で端末に向かっていた調査隊員、いきなり 隠し持っていたハンドガンの銃口を三枝の即頭部に向ける。
 ひ…と、一瞬息を呑む三枝。

調査隊員「だがそのおかげで、我々もこうして行動に出られる」
藤 岡「貴様、ICONの…」


 藤岡の言葉が終わらないうちに、テント内の何人かの調査隊員が一斉に 銃を取り出す。たちまちのうちに制圧されてしまうテント内。

調査隊員「藤岡司令官、三枝博士、我々と一緒に――」

 そのニセ調査隊員の言葉が終わらない内に、藤岡、手にした通信機を いきなり投じる。虚を突くスピードで放たれた無線機、ニセ調査隊員の 手の、三枝に向けられていたハンドガンを弾き落とす。うっ、と呻く ニセ調査隊員。刹那、そのすぐ目前に現れる藤岡の顔。

 テントの外、そのテントから殴られ、吹っ飛ばされて飛び出すニセ 調査隊員。続いて三枝を脇に抱えた藤岡がテントから飛び出す。
 周囲を見ると、既に調査隊員に紛れ込んでいた複数のICON兵により、 制圧されてしまっている調査隊。
 銃声が響く最中、ひとりのICON兵から拳一発で小銃を奪う藤岡。 三枝を連れて駆け出す。「藤岡だ!」「逃がすな!」といった怒号が 飛び交う。

三 枝「ICONがこんな所にまで紛れ込んでいたとは!」
藤 岡「ヘリまで走ります。着いて来なさい」
三 枝「ザンサイバーは――?」

 駆けつつ、一度だけドームの方向を向く三枝。その方向、空に見える、 翼長300メートル級の巨大輸送機。いや、それはもう“空中要塞”と 呼んで差し支えない。

○数刻後、ドーム外壁付近
  "落とし穴"に嵌まり込んだザンサイバーの頭が見える。その ザンサイバーが嵌まったままの大穴の横に立つ、2機の敵機動多肢兵器、 獣骸。遠くには、先まで三枝らの調査隊キャンプがあった場所に 着陸している巨大“空中要塞”が見える。

 その輸送機付近。すでに降り立った多くのICON兵によって制圧 されているキャンプ。
 その一角、鎖で雁字搦めに縛られた弦、どさっと投げ出される。 その倒れた弦の横っ面を踏みつけるブーツの足。斑天一郎である。
 そして弦の視線の先、後ろ手を捕まれた昴と遮那、そして嘲笑の表情を 見せている斑地二郎と人三郎。
 地二郎、ひぇひぇ…と声を出して笑う。

天一郎「言いつけ通り、機体から降りてくれたとはいい心がけだ」
 弦 「…昴を放しやがれ、このカマキリ野郎」

 どかっ、と弦を蹴りつける天一郎。思わずやめて、と叫ぶ昴。

天一郎「抜かせ! 地二郎を倒したばかりでなく、貴様があの藤岡の部下 というだけでも腸が煮え繰り返るわ」
 弦 「倒した、ね…」

 虚ろに、ひぇひぇ…と笑う地二郎の顔を覗き見る弦。回想、自分の 目前で溶け散る地二郎の姿。

天一郎「藤岡め、部下どもを置いて逃げ出し、挙句に俺はこんな餓鬼 ひとりを捕らえるのに使われるとは」なお、倒れた弦を何度も蹴りつづける。 「ええい、腹いせにもならん!」

 昴 「兄貴ぃ! お願い、やめて!」
ボーン「斑天一郎」

 その場に、静かに割って入るボーンの声。振り向く天一郎。数人の部下を 連れたボーンがその場にいる。

ボーン「斬馬兄妹を捕らえるという契約は果たされた。その少年ともう二人、 こちらに引き渡してもらうぞ」
天一郎「ふん…」

 鼻を鳴らし、鎖で縛られ顔を泥と痣だらけにした、ボロボロの呈の弦を 掴み上げる天一郎。そのままボーンの足元へ放り出す。

 昴 「兄貴!」

 声を上げる昴。その昴の目前、鎖に巻かれたままボーンの連れてきた兵 たちに引きずられていく弦。

○空中要塞、内部
 その上部のブロック、窓から陽光が差し込む、テーブルひとつない縦長の 部屋。そのドアが開き、ボーンに率いられて監視の兵たちと共に中に入る 弦、遮那、昴。

イオナ「――ボーン、手荒な真似をするなと厳命したはずですが」

 その、凛とした女の声に、部屋の奥に視線を移す弦たち。
 部屋の奥、護衛の兵二名を付き従え、凛とした佇まいで待ち受けていた ひとりの女。
 ふっくらとしたロングの髪、透き通るような白い肌、流れるような 美しい線の輪郭、
 そして――不可思議な、慈しみの輝きすら湛えた瞳。
 指導者イオナ、その人である。呆と、その美貌に目を奪われる 三人。

ボーン「斬馬 弦の確保を任せた配下の者どもを抑えきれませんでした。 私の力不足、お許しください」
イオナ「斬馬 弦君。そして昴さん。強引な方法になってしまったことは 謝ります」真意から、謝罪の意を込めた視線。「ただ…こうしてお話できる 機会を持てて良かった…」
 昴 「あ、貴方は…?」
遮 那「指導者イオナ、とお見受けしますが」呆然としている昴を横目に、 冷ややかに告げる遮那。「ICONの創設者にして、事実上の総裁――」
ボーン「無礼だぞ、女」
イオナ「ボーン、構わぬ」

 刹那――、
 ブン、と、鎖で縛られたままの弦が、その跳躍力で一気にイオナの元まで 跳ぶ。瞬く間にイオナの護衛の兵二人を、瞬殺とばかりそれぞれ蹴りの一撃 で倒す。

 弦 「はああっ…!」

 気合を込める。GIGIGIN…! その身体を雁字搦めにしていた 鎖が、たちまち引き千切られる。自由になった手で、イオナを後ろから 捕まえる弦。

ボーン「指導者イオナ!」
 昴 「兄貴ぃ!?」

 うひゃひゃひゃ――と笑い出す弦。

 弦 「こいつぁいいや! 隊長だかの偉いさんが来るのを大人しく 待ってたがよ、まさか敵の総大将さんがわざわざ出向いてくれるたぁな !」
ボーン「斬馬 弦、貴様!」

 ボ−ンが銃を抜くより早く、状況にいち早く反応した遮那の裏拳が、 自分の後ろにいた兵を一撃で沈黙させる。そのまま昴の手を取り、イオナを 捕らえた弦の元へ。

 弦 「――さて、この女をここで殺せば、この下らない戦争にもケリが ついて日本も安泰って訳だ」

 ぐっ、と背後からイオナの首に腕を回す。

 昴 「兄貴、なんてこと!」
遮 那「全員、武器を床に置いて!」

 室内に響く遮那の声。イオナ、動じた様子もなくボーンに頷く。奥歯を 噛み、仕方なくひざまづき、銃を床に置くボーン。他の兵たちもそれに 倣う。
 さっと小銃二丁をそれぞれ両手に拾い、兵たちを牽制しつつ部屋の 入り口へ向かう遮那。イオナを人質とした弦たちもそれに続く。
 部屋を出る四人。ボーンたちの目前でドアが閉じる。瞬間、衝撃音と 共にドアの電子ロック部分から上がる白煙。

ボーン「早く開けろ」

 ボーンの指示にて、兵たちが破壊されたドアロックに取り付く。その様を 横目に、携帯端末を取り出すボーン。

ボーン「斑三兄弟――」最も、危険な配下を呼び出す。「新しい依頼だ ――斬馬 弦を殺せ」

○空中要塞内、通路
 イオナを人質に、機外へ脱出するべく駆けている三人。弦、イオナの 後ろ腕をひねり上げるように掴み上げたまま。それでも苦しげな顔も、 憎々しげな顔さえも見せていないイオナ。

遮 那「本気で、あそこで彼女を殺すんじゃないかって冷や冷やしたわ」
 弦 「なんなら今ここでケリ付けといたっていいぜ。生かしておいたって、 敵を残すだけだしよ」
 昴 「兄貴!」
イオナ「…少なくとも今は、私を殺すつもりなどないのでしょう?」 穏やかに告げるイオナ。「あそこで私を殺せば、こちらのお嬢さんたちを 助ける好機は消えていましたから」

 微かな笑顔さえ見せるイオナに、舌打ちする弦。

 弦 「言ってくれるじゃねえか…こんな大した軍団従えて、世界を手玉に 取ろうって女がよ」
イオナ「斬馬 弦君。いまさら覆せないぐらいの誤解が生まれてしまい ましたが…」ふと、悲しそうな顔になる。「どうか、妹さんと一緒に 私たちの元に投降してくれませんか? 貴方たちの身の安全も、その後の 生活も保障――」
 弦 「ざけるな! 手前らのせいで優は殺され、俺と昴はモルモット扱い、 その上親父は国賊扱いで行方不明だ! これ以上手前らの話なんか聞く 耳持てねえ!」

 怒りのあまり、立ち止まってイオナの手をひねり上げる。 さすがに苦痛を表情に刻むイオナ。

 弦 「俺や昴をどうこうしたいってんなら 上等だ、たとえぶち殺そうが目の前に立ち塞がる奴等、目の前の敵、 全部ブッ潰してやらあ! 絶対手前らの思い通りなんかならねえ! そう しなきゃ、そうしなきゃ――」
 昴 「兄貴、やめて!」

イオナを捕らえる、弦の腕を掴む昴。

 弦 「昴…」
 昴 「嫌いだよ! そんなの、兄貴のやることじゃなかったでしょ!」
 弦 「昴、あのな…」
イオナ「昴さん、そうね、弦君の言うとおりかもしれない…」辛そうに、 割って入るイオナ。「貴方たちの敵は、多すぎるから…貴方たちのお父様、 斬馬博士の志をお助け出来なかったことが悔やまれます。そうすれば、 あなたたちがザンサイバーに…ブラック・スフィアになど縛られず…」

 その言葉に、一瞬、言葉を失う一同。

 弦 「なんなんだ…あんた、何が言いたいんだ?」
イオナ「貴方たち兄妹に刻まれた"進化の刻印" 、それこそ――」は、と目を見開くイオナ。「危ないっ!」

 瞬間、"後ろ手を掴み上げられているにもかかわらず"、弦を突き飛ばす イオナ。その一瞬、ドオッ――! 突然、すぐ脇の壁面が破られる。今まで 弦の頭があった空間に飛び出す巨大な掌。
 イオナに飛ばされ、倒れる弦。そこへ、ひぇひぇひぇひぇひぇ…! と いう下卑た哄笑と共にサブマシンガンの弾が撃ちこまれてくる。転がって 躱す弦。
 しゃぁぁぁっ! という掛け声、今度は半月型の刃が振り下ろされてくる。 転がりざま、その振り下ろされてくる半月刀の横腹を高速で蹴り、 反動で立ち上がる弦。素早く昴たちの元に戻り、背に庇う体勢を作る。

天一郎「――ホウ、どうやら藤岡にひと通りはしごかれたらしいな」

 その場に、各々武器を手に、一同を囲むように現れる斑天一郎、地二郎。 そして、壁をベキベキと破って姿を現す人三郎。ついに三人揃う、 斑三兄弟。

 弦 「へっ、見たくもねえツラにまたご挨拶たあな。 三馬鹿大将ご一行様よ」
天一郎「坊主――いや、斬馬 弦。俺たちは新たな契約を結んだ。 貴様の抹殺だ」両手の半月刀を構え直す天一郎。「千年の間、闇の世界の 頂点に君臨し斑流暗殺術、現世の最期にとくと見せてくれる」
 弦 「面白ぇ、そっちが千年の殺し技なら、こちとらこの世に生まれて 18年、――空手で鍛えた、斬馬我流ケンカ術よ」

 不敵に拳を構える弦。

イオナ「斑三兄弟、ここは退け!」命令を下すイオナ。「お前たちの使命は 私の奪還のはず、私さえ無事に戻れば、こんな子供たちの命など問題 ではあるまい!」
天一郎「ICONの女帝、あいにく俺達のクライアントはお前ではない。 そして俺達がクライアントと交わした契約はひとつ、斬馬 弦の抹殺よ ――地二郎、人三郎!」

 長兄の指示が飛ぶ。地二郎の小柄な身体が宙を舞い、人三郎の巨体の 腕が弦に伸びる――!

○空中要塞内、格納庫
 獣骸といった巨大兵器が数機搭載できるほどの機内格納庫、 その機内へと続く通路から、吹っ飛ばされてくる弦の体躯!

 床面に転がりつつも、すぐに姿勢を立て直す弦。その右手には、 なにやら敗れた肌色の薄皮が掴まれている。

 弦 「こ、こいつ…」唇を噛む。「こないだザンサイバーに 喰われたはずが…どうして平然と生きてたのか、やっと仕掛けが判ったぜ」

 ひぇひぇひぇ…と笑いつつ、通路から現に歩み寄ってくる地二郎。 その顔の皮が半分引き剥がされ、そこからは――機械であることを示す、 鋼の地肌が覗いている。
 続いて姿を現す天一郎と人三郎。

天一郎「その通りよ斬馬 弦。我が弟、地二郎は一度、貴様の手によって 殺された。ここにいるのは、記憶も、兄弟の思い出もない、ただ地二郎の 殺しの技だけを受け継いだ哀れな機械人形よ。そして…」

 背後の、人三郎を一度だけ振り返る。

天一郎「かつて、いまひとりの弟人三郎を殺し、今の地二郎と同じに してくれたのが貴様を指揮する藤岡よ!」

 憎々しげに唸る天一郎。

天一郎「部下の貴様ともども、 我が兄弟をことごとく殺してくれた藤岡、許せん! 奴への復讐の前に、 まずは貴様から血祭りに上げてくれるわ!」
 弦 「さっきから部下、部下ってよ…たしかにあのおっさんにゃ、体術 から武器の扱い方までさんざシゴかれちゃいるが、手下になったつもりは ねえぞ!」立ち上がり、構え直す。「大体、そうとまで俺とあのおっさん を殺したいかよ! しつけーんだよ手前ら!」
天一郎「一度標的とした敵を殺すまでは、死しても死すことは許されぬ。 こうして、たとえ人形に成り果てようと…これが斑流暗殺術の千年の掟よ ! 地二郎、人三郎、殺れ!」
地二郎「ひぇひぇひぇひぇーっ!」

 地二郎、再び跳躍。宙空から両手にしたサブマシンガンを撃ち放つ。 転がり、かろうじて躱す弦。カチ、カチ、地二郎の手のサブマシンガンの 銃口から乾いた音が鳴る。弾切れだ。着地する地二郎。

 弦 「野郎!」

 チャンスと駆け出す弦。が、人三郎が素早くコートの胸元を開く。そこに 覗く、いくつ詰められたのか判らない火器の山。そこから素早く新たな サブマシンガンを取り、地二郎に投じる。
 投げられたサブマシンガンを受け取ると同時、ひぇひぇひぇ と笑いつつ撃ち放つ地二郎。パパパッ…! 弦の足が、その足元に 撥ねる銃弾に止まる。
 反撃の糸口を掴めない弦。そこへ、遅れて 格納庫内へ飛び込んでくる遮那と昴。イオナも何故か一緒に着いてくる。

遮 那「弦君!」

 叫び、両手の小銃の一丁を、床を転がる弦に投じる。手を伸ばし、 横っ飛びに受け取る弦。

 弦 「野郎!」

 壁を蹴り、縦横無尽に跳び回っては宙から銃撃してくる地二郎――の ロボットに向かい、受け取った銃を乱射する弦。
 反撃が始まったと見るや、素早く退く地二郎。その壁になるように 人三郎が前に出る。弦の撃った弾丸すべてをその広い胸板に受けつつ、 平然と巨大な拳を揮ってくる人三郎。
 ガッ――! 拳の一撃が、たった今まで弦のいた場所の床を砕く。 避けた弦のすぐ目前に、両手に半月刀を持った天一郎が立つ。 ガシッ、揮われた二本の剣を、とっさに小銃で受ける弦。だが小銃が 三つに分断されただけだ。
 なおも揮われる剣を避け、跳ぶ弦。だがそこに再び宙空から地二郎が 銃撃してくる。

 弦 「くっ、くそ!」
天一郎「斑流暗殺術、月見草の陣。この殺しの魔法陣、いつまで躱し 続けられる、斬馬 弦」
 弦 「いいアタックだよ…けどよ」

 睨みあう、弦と斑三兄弟。
 その、ほんのひと時の攻撃休止の合間、左胸に手をやる弦。

 ドクン、ドクン…、撥ねている鼓動。

 弦の口元、刻まれている――状況を楽しむかの、笑み。胸に当てた手を ぎゅっと握る。確かな鼓動を刻みつづける、自らの心臓を確かめるように。

弦・M「時間は、いつ来るか判んねえから…だから」

 回想。初めてザンサイバーの中に入ったとき、喰われかけ、絶叫する 自分と、目前で溶け崩れる手。その手が今、視線の中で、胸から離れた 自分の手と重なる。

 弦 「だから――目の前の敵は、速攻で叩き潰す! 俺に逃げてる暇 なんかねえんだ!」ぎゅっ、と握られる拳。その拳を引き、構え直す。 「ここで、黙って、殺られてやる訳にはいかねえ!」

 その叫びに応えるように、地二郎が再び跳ぶ。ひぇひぇひぇひぇーっ ! 再度の宙からの銃撃の中、まっすぐ人三郎へと狙いを定めて駆け出す弦。

天一郎「一番動きが鈍い者からとでも考えたか、馬鹿が!」

 人三郎の、まるで丸太のごとき腕が、これまでにない高速で弦に 揮われる!
 ズバン! 爆発的な衝撃音、腕を引き抜く人三郎。その鉄拳が 叩き込まれた床面は、まさに爆破されたがごとき大穴が穿たれている。 だが、そこには弦の潰された死体どころかその姿もない。

天一郎「消えただと?」
 弦 「――あったあった」

 そこに響く弦の声。なんと、振り上げた姿勢の人三郎の、丸太のような 腕先にしがみついている弦。そしてその人三郎のコートの袖をめくって いる。
 めくられた袖から覗く、機械で構成された人三郎の腕。そしてその腕には、 ドラム状に数丁の小銃が巻きつけられている。人三郎の腕にしがみついた まま、その小銃の一丁を奪い取る弦。

天一郎「貴様!」

 うがあ、と弦のほうを向き、恫喝する顔になる人三郎。弦、ためらいも せずにその人三郎の開いた口に銃口を突っ込ませる。口腔内に響く、撃ち 放たれる銃声――!
 BOW! ついに、弾け散る人三郎の頭部。弦が右腕にしがみついたまま、 ゆらり、と倒れる巨体。

天一郎「人三郎!」

 ズン、と床に倒れた人三郎から飛び退く弦。その首から上を失った 人三郎の、コートの胸を開く。前話で昴を捕らえるため、がらんどうの 檻とされていたそこには、今回大量の武器が詰められている。

地二郎「ひぇひぇひぇーっ!」

 またも、宙から弦に襲い掛かろうとする地二郎。だが、その弦の肩には 、人三郎の胸の中から引っ張り出したロケットランチャーが担がれている。
 号砲。その近距離から自分めがけて放たれてきたロケット弾に、 思わず身体を丸め、宙空の自身の軌道を変える地二郎。すぐ付近の、 ハンガーに固定されていた獣骸の装甲表面にて破裂するロケット弾。
 そのまま弦の近くまで落ちる地二郎…待ち構えていた弦が、バットの ように振りかぶっている、空となったロケットランチャー、
 ガン! 地二郎の横っ面を直撃する、猛烈な勢いで揮われた砲身。 たまらずその顔面の金属フレームがへしゃげ、開いた口腔から幾つか 部品が飛び出す。

 弦 「斬馬我流ケンカ術、一拳入魂!」その機を逃さず、拳を揮う弦 ――、「チェストーッ!」

 ドオッ――! その正拳突きの一撃が、地二郎の胸板を貫き、背中まで 抜ける。背に穿たれた穴から、撥ね散る部品類とコード類、そして火花。

地二郎「ひぇ、ひぇ、ひぇひぇ…」

 がくがくと、半分潰れた頭を震わせる地二郎。弦が、その機械の身体を 貫いた拳を引き抜くと同時、もはや二度と笑うことなく床に崩れ落ちる。

 その光景を、息を呑んで見つめている昴。信じられないものを見た、 という視線――。

 昴 「なん…なのよ?」怯え、身を震えさす。「兄貴じゃ…ないよ… だって…あんなの…」
天一郎「地二郎―っ!」

 天一郎の叫び。その場に響く弦の哄笑。

 弦 「どんなもんでえ! どんな野郎が相手でもくたばるまでぶちのめす、 それが斬馬我流ケンカ術18年の掟よ!」

 倒れた人三郎の体内から、なおも嬉々と武器を漁ろうとする弦。小さな 子供が、玩具箱から好みの玩具を探しているがごとく。
 その光景に、恐怖する昴。

昴「人間技じゃ…人間のやることじゃ、ないよ…」

 傍らで、悲痛そうに目を背けるイオナ。

天一郎「おのれ、おのれ斬馬 弦! おのれ藤岡! 貴様ら一体何回、俺の 弟を殺せば気が済むのだ!」

 絶叫し、跳ぶ天一郎。両手の半月刀が唸る。人三郎の体内から、新たに 引っ張り出した2丁の小銃の銃身をそれぞれの手で掴み、棍棒のように 振り上げる弦。揮われる半月刀の刃の真横に、驚くべき反応速度で両手の 銃を叩きつける。
 ザァァッ――、火花を上げ、それぞれ銃身の横に流される半月刀の刀身。 弦、天一郎、それぞれ両手をいっぱいに広げた姿勢で向き合う形 となる――。
 ゴッ、素早く前に出た弦の頭突きが、天一郎の顔面を直撃する。

天一郎「がっ!」
 弦 「オラァ!」

 小銃を捨てた左手が、天一郎の襟首を掴み上げる。顔面から、天一郎を 床に叩きつける弦。立ち上がる間も与えず、その天一郎を蹴り飛ばす。
 床に転がり、倒れる天一郎。それでもその手から、愛用の半月刀が離れる ことはない。右手に残った小銃を構え直し、天一郎に向ける弦。

 弦 「形勢逆転だな。楯代わり兼武器庫たぁ、ずいぶん便利な弟じゃ ねえか。俺もひとり欲しいぐらいだぜ」
天一郎「お、おのれ…」

 凄惨な笑みを浮かべ、引き金を引こうとする弦。

 昴 「――やめて!」

 絶叫。弦、思わず昴のほうを向く。

 昴 「やめてよぉっ! こんなの、こんなの…っ!」
 弦 「昴…?」

 弦、見てしまう。泣いている――昴。
 瞬間、好機とばかり、駆け出す天一郎。弦のほうでなく、呆然とこの 凄惨な戦いを見つめるしかなかった、昴たちへと――!

 弦 「しまっ――」
天一郎「斬馬 弦ッ、弟を殺した貴様の罪、女どもの血で償ってもらう!」

 駆け出す弦。が、もう間に合わない。天一郎の手の半月刀が、固まった 昴とイオナに振り下ろされる刹那――、

 銃声、

天一郎「…ぐ、ぐぉぉ…」

 女二人の目前で、無様に剣を落とし、撃たれた胸を抑えて倒れる天一郎。

黒鬼「…痴れ者が。標的を見失い、我が君に刃を向けた貴様の罪こそ死を もって償え」

 響く、歩いてくる靴音。片手に拳銃、その身に黒い戦闘服。そして、 ヘルメットには金色の二本角と、鋭い造形の白い鬼面――、

黒鬼「…随分と暴れてくれたな、破導獣の飼主、斬馬 弦」

 弦を一瞥する黒鬼。

黒鬼「…もっとも、こんな連中に首を取られる程度なら、復活した ザンサイバーを扱うことなど出来ぬか」
 弦 「手前…」油断なく、構える弦。「…何者だ?」
黒鬼「名などない。呼びたければ黒鬼とでも呼べ」

 告げ、武器を落として倒れた天一郎に、今一度銃を向ける。

イオナ「待て」黒鬼を制するイオナ。「これ以上、目の前での殺し合いは 充分。もうよい」

 その言葉に、さっと銃を下ろす黒鬼。

イオナ「斬馬 弦君。昴さん。危険な目に遭わせてしまったこと、ICON 指導者の名をもって謝罪いたします」
 弦 「な…に?」
イオナ「ただ…どうか、先も言った通り、私たちの元に投降して下さい。 そうでなければ、貴方たち兄弟は、恐るべき破壊に加担させられます。… この世界を、滅ぼすまでの破壊を」
 弦 「何…だと?」

 そこへ、

ボーン「指導者イオナ!」格納庫の中に、武装した一団を率いて駆け つけてくるボーン。「我らが指導者の命を狙った斬馬 弦だ! 殺せ!」
イオナ「ボーン、なんという!」
 弦 「所詮手前らの本音はそれかよ!」

 刹那、爆発音。同時に猛烈な突風が格納庫内に吹き荒れてくる。その 突風の中、思わず足が止まる格納庫内の一同。咄嗟にイオナを庇う 体勢になる黒鬼。

遮 那「弦――昴!」

 叫び。今まで姿が見えなかった遮那、その件の爆発地点、外壁に開いた 大穴のすぐ近くで壁にしがみついている。

遮 那「早く来て! 貴方たちがいないと脱出できない!」

 その遮那の声にいち早く反応し、昴の手を引いて駆け出す弦。
 一度だけ、ふと、遮那と、イオナの背後の黒鬼の視線が合う。わずかに 頷く黒鬼。応じず、唇を引き締める遮那。

イオナ「斬馬――弦君!」

 イオナの声に、一度だけ振り返る昴。見る。イオナの、悲しげな視線。
 背後に響く怒号と銃声を背に、大穴から機外へと脱出する三人――。

○上空
 弦 「…聞いてねえぞーーーっ!」
 昴 「うっそぉーーーっ!」

 絶叫する二人。空中要塞――いつの間にか、既に雲を越え、上空へと 飛行していたのである。
 パラシュートも何もなしに、大空へとダイブしている三人。眼下に広がる、 絶望的なまでに遠い、地面の景色。
 両手を大の字に広げ、落下しつつ、顔を引きつらせている昴。

昴・M「私はその時、身体いっぱいに風を受けて、忘れていました。 ――指導者イオナの悲しそうな目も。笑いながら、平然と人を殺そうとした 兄の顔も」

(「Destruction4」へ続く)


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