Destruction9.5―「光芒暗転(後編)」
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○達磨島周辺、無人島、俯瞰
巻き起こる爆発。ザンサイバーが、敵の破導獣にゼロ距離砲撃で 放った主砲による物だ。
○“十字の檻(クロスケイジ)”、上空
空中で激しく激突する、黒鬼駆る魔王骸と優のガイオーマ。上空から その無人島での爆発の閃光を確認する黒鬼。
黒 鬼「斬馬 弦!?」
優 「どこを見ている!」
一瞬の隙を突き、ガイオーマの掌が魔王骸の顔面を鷲掴みにする。
背部シェルブースター全開、魔王骸を捕まえたまま、地上へと 高速で向かうガイオーマ。
○“十字の檻”、昴の部屋
昴 「兄…貴、兄貴ぃーーーっ!」
爆発の閃光が、昴の部屋の窓にまで届いている。
と、その部屋の扉が開く。飛び込んでくる、武装に身を固めた蘭子。
蘭 子「昴さんね、無事!?」と、窓の閃光に気付く。「一体… なにが?」
○“十字の檻”、指令室
すぐ付近の島での大爆発。その閃光が窓から届いている室内。 腕を上げて閃光を塞いでいる三枝博士。
三 枝「やった…!?」
遮 那「いいえ、彼は死にませんよ」
背後からの声。振り返ると、両手にそれぞれ持った二丁の小銃を、 油断なく司令室の中に向けて構えている遮那。
○サブタイトル
「Destruction 9.5 ― 光芒暗転(後編)」
○“十字の檻”、指令室
三 枝「叶指令補…なるほど、見事な手際ね」
遮 那「あの程度のことで倒れるザンサイバーでないことは、あなたが ご承知のはず」
三 枝「それもそうね。――その様子だと、今頃昴さんのもとにも 救出の手が行ってるというところかしら?」
遮 那「危険な本性をさらけ出したあなたに、これ以上“進化の刻印” は預けられませんから」
三 枝「それもそうね」
何故か、くく、と笑みを漏らす三枝博士。戦況モニターに視線を 向ける。爆煙が収まってきた中、白い靄のなかに屹立する、蒼い鋼の 巨体――、
○達磨島周辺、無人島
弦 「うおおおおおおおおっ!」
咆吼を上げる弦。ザンサイバーを、まだ残った敵へと向けさせる。 もはや残りは十数体、数えられるほどだ。
弦 「あと少し…まとめて片付けてやらあ」
刹那、突如ザンサイバーの背後の地面が弾ける。何事か、と振り向く 間もなく、巨大な金属質の咆吼を上げ、その爪でザンサイバーを 捕らえる――巨竜型破導獣!
弦 「もう一匹いやがったのかよ!?」
背後からザンサイバーの左肩に食い付く破導獣。疑似ブラック・ スフィアというまがい物とはいえ、仮にも同じ動力を持った機体同士、 絶対の盾である二次元絶対シールドの効果がうち消され、乱杭歯が装甲に 食い込み、抉り破る。
さらに、その動けないザンサイバーに向かって、一斉に突進してくる 残った破導獣軍団。
弦 「畜生どもがァッ!」
胸部獣面の口腔に銜えていた、巨大拳銃を取るザンサイバー。右腕を 破砕せんばかりの反動と過負荷も構わず、迫り来る破導獣軍団へと 向かって撃つ。
GAOM!
電光の尾を引く散弾の一撃が、 一気に十体以上の破導獣を蜂の巣にし、沈黙させる。
弦 「大した威力だぜ、このソロバン鉄砲様はよぉ!」背後から 食らいつく、巨竜型破導獣の鼻っ柱に銃口を押しつける。「次は 手前ェだ!」
撃つ――、
BANG!
一瞬、何事が起きたか理解できない弦。その銃口から 稲妻の散弾を撃ち放つことなく、ついに銃身が、迸るエネルギーの 圧力に耐えきれず破裂したのだ。銃身をきつく縛っていた耐熱布が 焼け散り、銃そのものの爆発がザンサイバーと破導獣を苛む。
幸か不幸か、その暴発によって破導獣の牙から開放され、地に転がる ザンサイバー。すかさず、そのザンサイバーに向かって爪を 振り下ろしてくる破導獣。
弦 「まだまだ…殺られねえッ!」
背部ブースター点火、地に這いつくばったまま、瞬時に飛び出す ザンサイバー。巨竜型破導獣の爪が空を切る。低空から、まだ目前に 居残る破導獣の群れへと飛び込むザンサイバー。その一体の足首を 捕まえ、その敵機を加速で引き倒しつつ足で地面を抉り、 立ち上がる。両手の甲から伸びる、長大な鋼爪、パイルドスマッシャー。
弦 「まだ死ぬ訳にゃいかねえんだよ、俺は!」
○回想、空中要塞格納庫、出撃前
待機ハンガーにて出撃を待つザンサイバー。その胸部獣面、口腔に 乗り込みかけるところで弦を呼び止めている遮那。
遮 那「昴さんのことは私たちに任せて、君は戦闘に専念しなさい。 君が敵をすべて片付ける頃には、昴さんと無事に再会できるわ」
弦 「でっかく来たもんだぜ。ま、あんたのその辺の腕前だけは 信用してるよ」
ぶっきらぼうに言い放つ。
遮 那「君から、信用って言葉を、いただけるとはね」
弦 「死なれちゃ迷惑なだけだ。言っただろう、あんたにゃ絶対借り を返さなきゃならねえってな」
遮 那「なら――」どこか、不可思議な感情を込めた視線で、弦を 見つめる。「君も絶対先に死なないこと…それで、いいわね」
その、遮那の思わぬ言葉に、戸惑う様子を見せる弦。
弦 「…俺の命は、どこまで保つか判らねえ…明日には、死んでる かも知れねえ命だぜ」
遮 那「だったら、君は生きなさい」一瞬で、視線に込めた感情を うち消し、告げる。「その限られた命のギリギリまで、自分の成すべき こと、自分のささやかな夢、すべてを叶えてみせるまで―― 君という人間が、確かにここに生きていたという証を立てるまで、 それまで、何がなんでも生きてみなさい」
弦 「…俺を殺そうとした人間の台詞たぁ思えねえな」
遮 那「…君は、私にその借りを返さなきゃならないんでしょ ? それまで『死なせてなんかやんねえ』って」
くすり、と、微笑んでみせる遮那。
○現在、“十字の檻”、指令室
遮那の顔が苦悶に歪む。両手にそれぞれ小銃を持った遮那の手、 その両手が、三枝の手によって掴まれ、上方に持ち上げられている。 ついに、震える指先から床に落ちる、二丁の小銃。
遮 那「三枝博士…あなた」
三 枝「舐めてはいけないわよ――指導者イオナのスパイさん」
遮 那「!」
一瞬動揺を見せつつも、素早く膝を上げる遮那。鳩尾のあたりを 膝で突き上げられ、瞬間遮那の手首を掴んだ手を放す三枝博士。 素早く三枝博士から距離を置き、腰のホルスターからハンドガンを 取る。が、三枝博士もまた素早く、纏った白衣の懐からハンドガンを 抜く。
至近距離、互いに銃を向け合い、一歩も動けない二人。
三 枝「…気付かれてないとでも思っていたの? 一体何者が、 こちら側の情報を次々とICONに漏らしていたのか」
遮 那「そうですね…多少行動が、あからさま過ぎましたか」
三 枝「目的は、愛しのお兄様の仇討ちというところ? ザンサイバー だものね、あなたのお兄様を喰い殺したのは」
遮 那「強気な口をきける、余裕があるとも思えませんけど?」一度、 奥歯をぎっ、と軋ませる。「こうしてる間にも、お抱えの“進化の刻印” は、そろそろ逃げ出してる頃ですよ」
その遮那の言葉に、哄笑する三枝博士。
三 枝「なるほど安心したわ、その辺の情報までは、流石のあなたにも 掴めてなかったのね」
遮 那「なにを…」
三 枝「少しだけ教えて差し上げるわ…“進化の刻印”は、もう、 いらないのよ…ここにザンサイバーが来てくれているなら、ね」
遮 那「どういうこと!?」
三 枝「判らない? 日本政府への宣戦布告も、あの出来損ないの 破導獣軍団を覚醒させたのも、サイレント・ボーンストリング配下の ICONの来襲も…すべては、“ザンサイバーをここに呼ぶための、 お膳立てよ”」
銃声――、
弾かれ床に転がるハンドガン。互いに牽制し合っていた、二人の 均衡が崩される。
男 「そうそう思い通りにはさせられないんだ。過ちを、繰り返さない ために」
ハンドガンを手にした、もうひとり、何者かが油断なく、銃を弾かれ 手首を押さえる三枝博士を牽制する。
三 枝「あなたは…」その男を、何故か、驚愕の眼差しで見つめる 三枝博士。「ありえない…だって、あなたは」
男 「――叶指令補、ザンサイバーに今すぐここから撤退するよう 連絡して欲しい。斬馬 昴くんさえ保護できてるなら、もうここには 用はない」
遮 那「あなたは、一体…?」
遮那もまた、その男を驚愕の眼差しで見つめる。
不自由な片脚を松葉杖で支え、片手にしたハンドガンで銃を落とした 三枝博士を牽制しているのは…荒れ放題だった髪型も整髪され、 髭も剃られているが、かつて蘭子が弦と邂逅させた男、トキさん である。
○“十字の檻”滑走路
上空から落下してくる、ガイオーマと喉輪を掴まれた魔王骸。 ガイオーマ、そのまま魔王骸を、地上の滑走路に高速で叩き付ける つもりである。
黒 鬼「なるほど柾 優、だがまだ甘いわ!」
黒鬼、吼える。刹那、ガイオーマの手の先からがくん、と力が 抜ける。魔王骸の掴まれたままの首が、突如ぐいと伸びたのだ。
優 「なに!?」
驚愕する優の目前で、人の貌を象った、端正でもある魔王骸のマスク が黒い竜の顔に閉ざされる。魔王骸が、その黒竜たる姿、魔竜骸へと 変形したのだ。
折り重なったまま滑走路へと落ちる直前、重力の法則を無視したかの ごとく、地上から急反発して再び上空へと撥ねる魔竜骸。ガイオーマ、 その急激な機動についていけず、背から滑走路脇の格納庫へと 跳ばされる。格納庫の屋根を潰しし、地に叩き付けられるガイオーマ。
魔竜骸、上空にて再度人型、魔王骸へと変形。そのまま倒れた ガイオーマへと急降下する。その身を回転させる魔王骸。
優 「――っ!」
咄嗟に腕で頭部をガードするガイオーマ。その腕に、魔王骸の 上空からの強烈な回転踵落としが決まる。
その衝撃に、腕の構造をみしりと軋ませるガイオーマ。
優 「流石黒鬼…っ!」
黒 鬼「柾 優、よく受けた!」素直に賞賛する。「どうだ、我が主、 指導者イオナの軍門に下る気はないか? 貴様とてサイレント・ ボーンストリングへの義で戦っている訳ではあるまい」
優 「笑止!」
魔王骸の脚が乗ったままの腕を揮う。離れる二機。
優 「僕の望みはただひとつ、我が友の姿で血を吸う殺人鬼、 破導獣をこの手で抹殺することのみ!――たとえ貴方であろうとその 邪魔はさせない!」
黒 鬼「あくまで憎しみに刃を取るか、柾 優!」
互いに駆け出す二機。刹那、上空へと飛翔する魔王骸。両腕の砲門を 地上のガイオーマへと向ける。
その砲門が火を噴く寸前、その銀の翼をしならせ、大きく展開させる ガイオーマ。
優 「行け、抗体ども!」
瞬間、ガイオーマから放たれる次元波動。周囲の瓦礫、敵破導獣の 残骸などが宙に舞い、嵐のごとく渦を巻く。
その破砕片の嵐に塞がれる魔王骸の砲撃。
黒 鬼「何と!」
さらに、仮面の奥で目を見開く黒鬼。ガイオーマの周囲に吹き荒れた 破砕片の嵐が結集、十数機の白い多肢兵器としてガイオーマの周囲に 出現したのである。
次元波動が形作る陽炎――立体映像に物質を取り込ませ、実体兵器と しての攻撃力を持った存在を生み出すというガイオーマの特殊能力、 コーパスルズだ。
一斉に実体化した十数機の砲台タイプのコーパスルズが全機、その 頭部のエネルギー砲から宙空のガイオーマへと砲撃を開始する。
十数機分の高熱の奔流に晒される魔王骸。
黒 鬼「ぬ、抜かった!」
刹那、その魔王骸の目前へと急出現してくるガイオーマ。砲口を晒した ままの右腕を掴む。引き千切られる、魔王骸の右腕――。
○“十字の檻”、通路
通路の路地に身を隠し、追っ手からの銃撃に応戦している蘭子。 その傍らには、連れ出した昴がいる。
蘭 子「思ったより、敵の数が多い…」舌打ち混じりに、手にした 小銃の弾倉を素早く交換する。「心配しないでね、昴さん。あなたは 必ず、弦くんと会わせてあげますから」
昴 「弦…くん?」
蘭 子「うーん、もしかしたら…」昴の顔を見もせず、冗談交じりに 応じる。「将来、私のことはお義姉さんと呼んでもらうことに…きゃっ、 なんちてなんちてなんちてー♪」
きゃははと笑いつつ応戦する。が、
昴 「…駄目、です」
蘭 子「え?」
昴 「…駄目です、私を、私を兄貴と会わせちゃいけない!」
蘭 子「昴さん!?」
昴 「駄目なんです! 私、私、すべて判ったんです!」ぎゅっ、 と、涙すら浮かべ、蘭子にすがりつく昴。「判ったんです… 思い出してしまったんです…私が、私が何者なのか。だから…」
蘭 子「………」
昴 「私が、いる限り、兄は果てしなく戦い続ける…私がいる限り、 “未来は、閉ざされてしまう”…だから、だから――!」
蘭 子「昴さん…」
何故か、哀しそうに、そして冷徹に、昴に視線を向ける蘭子。
蘭 子「そう――知ってしまったのね。あなたに刻まれた、“進化の 刻印”としての宿命を…」
昴 「…あなたは」
蘭 子「昴さん、覚えておいてね。私の名前は月島蘭子」ふと、微笑む。 「この名前を…忘れないで、ね」
○達磨島周辺、無人島
ガッ――! 交錯し弾き合う、鋼爪と鋼爪。ザンサイバーと巨竜型 破導獣の激突、続いている。
ガアアッ! 咆吼を上げてザンサイバーに突進してくる巨体。 その身軽さで躱すザンサイバー。その装甲の表面があちこち刻まれ、 歪み、欠落している。
弦・モノローグ(以下M)「右腕の反応がニブい…こんちくしょー」 もどかしげな弦。「ソロバン鉄砲もねえし、主砲を撃ってるヒマもねえ。 ヘタに近付いたら、あの爪でズタズタだ」
カットバック、ザンサイバーの装甲をことごとく砕く、巨竜型破導獣の 爪と牙。
と、再び爪を揮ってくる破導獣。跳躍で躱すザンサイバー、
弦 「スキありィッ!」
好機、と、機体を破導獣の背に飛び乗らせる。馬乗りになり、 破導獣の首を背後から抱え込み、ねじり上げるザンサイバー!
弦 「どうでいバーカ! このまま首根っこ、へし折ってやらあ!」
だがそう思惑通りにも行かず、その馬上のザンサイバーに群がって くる、残った数機の破導獣の群れ。
弦 「ウゼぇッ!」操縦桿を強く握る。「一か八か――!」
轟! 瞬間、ザンサイバーから爆発的に発せられる次元波動の衝撃。 その衝撃の前に吹き飛ばされ、また何機かの破導獣が行動不能に陥る。 巨竜型破導獣すらも、その衝撃に一旦地に膝を着く。
そして、
ビュッ――宙空から、それぞれ地面に投げ出された、残った破導獣の 群れに襲いかかる蒼い影、その爪の一撃が、一機の破導獣の装甲を砕き、 破砕する。
ザンサイバーの高速格闘戦形態、ジュウサイバーだ。 オオーン! 獰猛な四足獣のごとき姿が、戦場に雄叫びを轟かす。
駆け出すジュウサイバー。そのスピードを捉えることは容易には いかない、揮われる爪が、牙が、ことごとく残った破導獣どもに 襲いかかり、破砕していく。
ザッ、地面を抉り、着地するジュウサイバー。もはやすべての雑魚 破導獣は打ち倒され、残るは、巨竜型破導獣、ただ1機。
グル…、低く唸るジュウサイバー。
ガアアッ! 天空に、大きく吼える巨竜型破導獣。
互いの敵目掛け、駆け出す二機の破導獣――!
ストップモーション、右腕の爪を揮うジュウサイバー、左の爪を 揮ってくる破導獣、互いの爪と爪が激しく交錯し合う。だが体格の 小ささを生かし、一瞬早く、破導獣の懐に入るジュウサイバー。 その牙が、遂に真横から破導獣の首に食らい付く――、
ガアアッ! 絶叫し、ジュウサイバーを振り解こうとする破導獣。 だがその首の装甲を食い破った牙が離れたそこには、大きな傷痕が 刻まれている。すかさず、その傷痕に、左の爪を突っ込ませる ジュウサイバー!
その一撃で、完全に動きを制止させる破導獣。ジュウサイバー、 破導獣から離れる。首横の傷から火花を散らし、爆発、その首から 上を失い、地に倒れる。
破導獣軍団、壊滅。
ジュウサイバー、上体を起こし再びザンサイバーに変形。だが、 力尽きたかのごとくその場に膝を着く。
ハア、ハア…。流石に疲労を隠せず、息を荒くする弦。
優 「――済んだか」
その、優の声に、は、と振り仰ぐ。
ザンサイバーを睥睨する、岩山の中腹に立つガイオーマ。その左手 には、右腕を失い、力尽きたかの魔王骸が掴まれている。
弦 「黒鬼のオッサン!?」
黒 鬼「くっ…ガイオーマ、これほどとは…」火花散るコクピット内、 仮面の奥で、呻く黒鬼。「斬馬 弦、気を付けろ…」
優 「最後の挨拶も、これでいいか」
魔王骸を地面に放るガイオーマ。その上空を埋め尽くす、ICON 無人多肢兵器の大編隊。
優 「心配するな、僕と貴様の決着が付くまで、奴等は手出しは しない」嘲る様子もなく、ただ憎々しげに、ザンサイバーへと告げる。 「破導獣同士、共食いの時間は終わりだ。次は僕の相手をしてもらうぞ、 ザンサイバー!」
弦 「まったく…」唇を噛む。額に流れる汗、それでも、その表情には まだ余裕の笑みがある。「昴ちゃんよォ…迎えに行くには、まだ ちょっと時間がかかりそうだわ。悪ィ」
再び、両腕のパイルドスマッシャーを伸ばすザンサイバー。
○“十字の檻”、指令室
トキさん「なんということだ」悔しげに、唇の端を歪ませる。「またも “こうなってしまう”のか…あの二人が戦い合う運命は、決して 避けられないというのか…?」
苦渋の表情。と、哄笑が響く。銃口を向けられている、三枝博士だ。
三 枝「そんなはずはない!」笑って、目前の男の存在を否定する。 「指導者イオナ、あの女の仕業? それにしても、私の前に出して 来るにはよく判らない人選ね。こんな、よくもこんなつまらない男を――」
トキさん「久々の再会というのに、かなり心外だね――沙織お嬢さん」
三 枝「馴れ馴れしく、呼ばないでくれるかしら…」きっ、と、 トキさんを睨む。「そもそも、その男は…時実(ときざね)博士は、 既に死んでいる人間よ! 20年も前にね!」
三枝博士の糾弾の、言葉の真意を量りかね、動揺を隠せない様子の 遮那。一方、トキさん――時実博士、その三枝のヒステリックな声にも、 飄々とした態度を崩さない」
時 実「…まあ、君の観点から見れば、私は確かに死んだ人間に なるな。〈ここ〉に、私が生きていることを証明するものはなにひとつ 存在しない。唯一、私を観測する“他者の観点”あって、私は 〈ここ〉に存在していられる訳だ」
三 枝「ふざけないで! 時実のおじさんたちの遺跡調査隊は、 20年前、あの日本アルプスの雪山で、雪崩れに巻き込まれて… 私はあの人の遺体まで見ているのよ」
時 実「そう、だな…私は〈ここ〉では死んでいる人間だ。そう、 〈ここ〉は〈私が死んだという可能性〉の世界、だからね…」にやり、 と、三枝に問いかけるように言う。「だが、私は〈ここ〉にいる。 〈ひとつの可能性〉の世界に、〈もうひとつの可能性〉の存在は決して あり得ない。そんな世界の理も越えて、ね」
三 枝「………」
まるで正体の判らない、意味不明の存在を前に、背筋を震わせる三枝。 虚ろに、両手をだらんと下げる
三 枝「あなた…誰?」
時 実「今までは、世界の理の前に座していようとしていた傍観者。 だが今は、世界の理を破り、〈ひとつの可能性〉の世界を、思惑通りに 変化させようと目論む愚か者…はてさて、私は何者なのかな?」
にやにやと、三枝博士に笑いかける。うつむき、その時実博士と 視線を合わせもしない三枝博士。
その、うつむいた口元の端が、僅かにつり上がる。笑みを刻むように。
は、とその三枝博士に手にした銃を向ける遮那。刹那、垂れ下がった 三枝博士の両手、その白衣の袖口から飛び出し、両手に取られる二丁 の22口径。
瞬間、三枝博士の右脚が素早く、大きく振り上げられる。銃声、 銃を持った手を蹴り上げられた遮那が、天井へと引き金を引いたのだ。
遮 那「な…!?」
驚愕する遮那。その遮那の横面を強襲する、揮われた22口径の銃床。 ガッ、横面を打たれ、倒れかけつつも踏みとどまる遮那。その遮那の 腹に、再び揮われた三枝博士の脚が高速で叩き込まれる。
ぐはぁっ、と呻き、蹴り飛ばされる遮那。その宙を舞う遮那に、 三枝博士、容赦なく両手の22口径を撃つ――!
だん、と尻から床に倒れる遮那。銃を握っていた右掌には風穴が 明けられ、左右の上腕、左右の太股、それぞれに銃弾が抉った痕が 刻まれる。打ち抜くことで手足の自由を奪ったのでなく、体表を抉った 傷痕を走らせることで戦意を奪ったのだ。
その、四肢を傷つけられた遮那の額に、右手の22口径を突きつける 三枝。
遮 那「…さすがは西皇浄三郎48人の子のひとり、甘く見たわ…」
三 枝「安心なさい、殺しはしないわ」
左の銃を、茫然となっている時実博士に油断なく向ける。やれやれ、と 手にした銃を捨て、右手を挙げる時実博士。
三 枝「あなた達には、目撃者の栄誉をあげる ――これから起こる、最高のショーの開幕のね」
凄惨な笑み。
○洋上
戦場を海面に移し、ザンサイバーとガイオーマの戦闘、続いている。 互いに背のブースターを噴かし、海上すれすれを、海面を割って高速で 併走する二機。
ザンサイバーの額のセイフティーが開き、ガイオーマが両掌を挙げる。
放たれる、頭部主砲の熱量と両掌からの重力波、海面に大きく上がる 爆発!
その爆発を飛び越え、ガイオーマに挑みかかるザンサイバー。 だがこと空中戦ではガイオーマのほうが有利だ。ザンサイバーの震う 鋼爪を易々と躱し、逆にザンサイバーに向かって重力波を放ってくる。
直撃こそ躱すものの、余波でバランスを失い、水中に墜ちる ザンサイバー。だが、すぐに海面を割って浮上、またガイオーマの前に 立つ。
優 「どうだ、破導獣。楽しんでいるか? ――“この宇宙に、 決して発生し得ない対決”だ」
弦 「
“ひとつの星に、ふたつのブラック・スフィアは存在し得ない”
。この理を破ってるってか…」
優 「やはり…貴様も知っていたか、ブラック・スフィアの理を」
弦 「んでお前は、ザンサイバーを滅ぼし、宇宙の理って奴を守って どうするつもりだ?」問い返す、弦。「それが意味するところはよ…」
優 「貴様を滅ぼしてから考える!」
弦 「あー、そりゃ俺でも判りやすくて結構!」
突撃するガイオーマ! 迎え撃つザンサイバー!
激突、
○回想、空中要塞内、一室
弦、藤岡、黒鬼、そして遮那に蘭子といったメンバーが、指導者 イオナを中心に集まっている。こんな事態でも、常に指導者イオナの 横に寄り添い立つ黒鬼。
イオナ「ブラック・スフィアとドーム、それは星に生命をもたらし、 見守るものです」
カットバック、日本アルプスの山中にそびえ立つ“遺跡”―― 白いドーム。
イオナ「そして、この宇宙の生命の環を繋ぐもの…何者かが刻んだ、 絶対のプログラムのもとに」哀しげに、目を伏せる指導者イオナ。 「まずは、ブラック・スフィアとドームの関連からお話ししましょう」
訥々と、語る。
イオナ「ひとつの、まだ生命が生まれる前の若い惑星を発見した時、 まずは“種子”が宇宙からその星に飛来し、根付きます。そしてその 種子は大きな実を成す…“白いドーム”として」
藤 岡「日本アルプスの“遺跡”も、そうした宇宙からの種子が根付き、 膨らんだものなのですか?」
藤岡の言葉に頷く。
イオナ「そして、ドームは…星に“生命の種”を撒きます。あたかも、 風に流れ地に根付いた種子が、そこに実り、新たな種を撒くように。 …そして、星に命が生まれる。命は、膨大な時間をかけて進化を 繰り返し、やがて文明を生み出していく」
弦 「人間は…元々はみんなあのドームから生まれたってのかよ」
イオナ「そう言って、過言ではないでしょう。そして、ドームは、 ずっと見守り続けるのです。生命の進化の様と、文明の誕生を。その 文明の発展の様を、永い、永い時間をかけて、ずっと…そうして、」 俯いていた顔を、上げる。「その星に育った文明が、ある一定の レベルに達したと判断した時、ドームは宇宙から呼び寄せるのです… ブラック・スフィアを」
○現在、洋上
ザンサイバーとガイオーマの激突が続く。至近距離まで近付き、 互いに拳を震う二機。
弦・M「ブラック・スフィアって、結局一体なんなんだよ!?」
イオナ・M「もはや人の英知が及びもつかない遙かな過去、あるいは この宇宙の始まりと共に、何者かが“種子”と共に宇宙に撒いた、 生命を導くためのシステム。宇宙の生命を司る巨大な輪廻の環… あるいは、“進化”の美辞麗句のもと、星を滅ぼす黒い悪意…」
弦・M「星を…滅ぼすだと?」
イオナ・M「ドームの生み出した生命、その文明が神の領域… “人工的に命を生み出せる”レベルに達した時、ドームに導かれ、 ブラック・スフィアは飛来してきます。それが、この星では20年前の こと」
激突する拳と拳、弾き飛ばされる二機。だが体勢を立て直すのは ガイオーマのほうが僅かに早い。
イオナ・M「そして、その星に育った文明がブラック・スフィアを 発見した時、最後のプロセスは始まるのです。ブラック・スフィアは、 その星の文明にとって、未知の技術の集合体。そしてその星の人々は、 その超技術をもとに“必ず創り上げてしまう”。それは、おそらく ドームが生命を生み出す時、すべての生命に刻んだ忌まわしい プログラム――。そして生まれる“進化の刻印”と呼ばれる人工の 生命体、そして、“進化の刻印”の守護者となる、ブラック・スフィア そのものを核とする機械体…」
弦・M「それは…昴と、ザンサイバーのこと、なのか?」
イオナ・M「“私の星”では、ガイオーマがそれにあたりました」
弦・M「あんたは…それじゃあ」
先に姿勢を立て直し、大きく宙に上昇するガイオーマ。重力波を 放ってくる。
ザンサイバー、足の予備ホルダーから予備のバリアブル・ロッドを 取る。変形して手に取られる巨大斧。
イオナ・M「その機械体は、その星で持てる、最高の技術が蓄積されて 作られます。その星に生まれた文明、すべての技術が結集されたかの ように…。そしてその文明のデータは、そうしてすべてブラック・ スフィアに蓄積される。そして“進化”の時は始まるのです」
弦・M「“進化”の、時…」
イオナ・M「その時が来ると、“進化の刻印”はドームへと導かれます。 そして、その中で“進化”を遂げる…新たなドームの、“種子” として」
弦・M「あの“遺跡”が…元々は人間だったってのか!?」
イオナ・M「そして、“種子”はドームから宇宙へと放たれ、その星 でのドームの役割は終わります。その時…」
斧を手に、上空へと強襲を仕掛けるザンサイバー。
イオナ・M「ブラック・スフィアを孕んだ機械体は…その星すべてを 滅ぼす! 文明も、生まれ育った命も、すべて、すべて――」
弦・M「じゃあ、ガイオーマは…」
巨大な鎌を取るガイオーマ。宙空で激突する、斧と鎌。ザンサイバー、 ブースター全開、その出力で一気にガイオーマを押そうとする。
イオナ・M「――そうして、その星の文明、生命のすべてが滅んだあと、 役目を終えた殻を…自身をくるんだ機械体を脱ぎ捨て、ブラック・ スフィアもまた宇宙へ旅立ちます…その星の技術、文明のデータ、 すべてを持って」
弦・M「それじゃあ…それじゃあ、まるで」語尾を、震わせる。 「土地にペンペン草一本残さねえ、一方的な…刈り取りじゃねえか」
ザンサイバーの横面を殴り飛ばすガイオーマ。撥ねられた ザンサイバーが海面に突っ込む。
藤岡・M「宇宙にばらまかれた、無数のブラック・スフィアが破滅と 誕生を繰り返して、文明の知識を蓄えていく…誰が作った輪廻、 誰が作った宇宙なのだ?」
弦・M「ちょ、ちょっと待て!」重要なことに気付く。「
“ブラック・ スフィアが収まったガイオーマが、この星にある”
…それは一体!?」
海面から、再び浮上するザンサイバー。
○現在、空中要塞、コクピット
パイロット「間もなく小笠原上空です」
藤 岡「ザンサイバーと魔王骸に、これほど遅れるとは…」
苦渋の表情の藤岡。そして、指導者イオナ。
イオナ「綻びは、用意したのです…でもそれは、果たして、この狂った 輪廻の環を断ち切れるのか…」
○洋上
浮上したザンサイバー、いつの間にか、そこが、達磨島のすぐ付近で あることに気付く。上空を埋め尽くしているICON大編隊。そして、 達磨島にそびえる“十字の檻”施設の偉容。
弦 「ちっ、戻ってきちまっ、た…?」
視界の隅、何かに気付く弦。
“十字の檻”、中央施設屋上、その端に、立ち尽くしている二人の影。
視界スクリーンの映像をアップにする。目を見張る。
昴。そして、その後ろに立つ、薄ら笑いすら浮かべた三枝博士。
弦 「昴!」
一瞬、戦闘の最中も忘れ、“十字の檻”へと飛翔するザンサイバー。
○“十字の檻”内、指令室
時 実「いかん、弦くん、ここに来てはいかん!」
遮 那「弦くん、ここから離れて、来ては駄目!」
後ろ手を拘束されている二人、窓に映る、高速で近付いてくる ザンサイバーへと向かって叫ぶ。
○“十字の檻”中央施設、屋上
後ろから、昴を押さえる形の三枝博士。飛来してくるザンサイバーに、 なおもその表情の笑みを崩さない。
そして、昴。やや呆けた表情で、やはり飛来してくるザンサイバーを 見つめている。
その、傷だらけの手を伸ばしてくるザンサイバー。
にやり、と、懐中をまさぐる三枝博士。
その様に言葉を失う弦。
三枝博士の手に取られる、ハンドガン。
その銃口を、昴の頭の、真横に押しつける――
弦 「――っ!」
声なき絶叫。
それも虚しく、三枝博士の指に、力が込められていく。
そのとき、表情を、見せる昴。
どこか、諦めたような、それでも穏やかな眼差し。
口元が、何か、言葉を刻む。
――銃声。
その様を、スローモーションのように、見ている弦。
昴の身体が、屋上から、宙に舞う。
頭に穿たれた、銃創から、一条の鮮血が流れている。
昴の身体が、一条の鮮血が、風に流れるように、墜ちていく。
地面に、向かって――
弦 「…あ、ああ…」
身体中を震わせ、呻く弦。
哄笑が聞こえる。
昴を、撃った三枝博士の、満足げな哄笑。
耳障りな、狂おしいまでの、怒りを呼び起こすかの哄笑。
――絶叫、
弦 「うわあああああああああっ!!」
刹那、破裂する、ザンサイバーの全身から発せられた次元波動の閃光!
まるで天変地異のごとく、ザンサイバーの足元の海面が、巨大な渦を 巻いて竜巻を巻き起こす。
嵐のごとく荒れる海面、立ち上った巨大な竜巻から、迸る数条の稲妻、
★
藤 岡「これは…」
イオナ「――いけない!」
★
時実博士「いけない、いけない弦くん!」窓の外へと叫ぶ「また、 “また繰り返してしまうんだぞ”!」
★
竜巻が、突然崩れた。ドドド…大量の巻き上げられた海水が、 大瀑布となって再び海面に落ちていく。
大波が津波となって荒れ狂い、達磨島へと激しく押し寄せてくる。
だが、突然の天変地異は、それでは終わらない。
大瀑布が落ちたあたりの海面が、またも唐突に割れ、何かが顔を表す。
キュオォォォン…!
空中に、大きく咆吼を上げる、二本の鎌首。それは、まさに“竜”の 首だ。
カットバック、あの、“十字の檻”地下工廠に横たわる巨竜。 幼い昴の、頬への口付け。その巨竜の顔は…まさに、今、海面に姿を 現した、二本の鎌首のものではないか!
さらに海面が割れ、その“二首竜”の、全身像が海面に姿を現す。
四肢から生える鋼の爪、二本の長大な尾、そして、その背から生える、 肉食獣の頭を模した胴体を持つ人型の半身…!
★
優 「あれ、は…」思わず、攻撃の手を止め、その異形の二首竜を 凝視する。「ザンサイバー…なの、か?」
★
優の言うとおり、これもまた、ザンサイバーに隠された“破導獣”の 姿のひとつである。
キュオォォォン…!
空を切り裂く咆吼。異形の巨竜、その名はリュウサイバー――!
宙に留まっていた、ICONの無人多肢兵器編隊が一斉に身構える。 リュウサイバーに一斉に向けられる、次元貫通兵装ペネトレーターの 穂先。
だが、それより先にとばかり、二つの鎌首の口腔を、大きく開く リュウサイバー。その口腔の中に発生する、エネルギーの光球の淡い 輝き。次元波動のエネルギーが、口腔内に急速に収束しているのだ。
一斉に、ペネトレーターを構え、突撃してくるICON編隊。
そして、咆吼――、
リュウサイバーの口腔内に溜まった、膨大なまでのエネルギーが、 凶暴な爆流と化して吐き出される!
轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟――!
一瞬にして、閃光に呑み込まれる、ICON大編隊。
優 「これは――!?」
その爆流の威力の前に、ガイオーマもまた飛ばされる。
瞬間、
優 「――!」
優の脳裏に、流れ込んでいくビジョン。宇宙、生命、誕生、滅亡、 そして…、
★
リュウサイバーの吐いた爆流の威力は、それに留まらない。
太平洋上を、一直線に突き進む爆流。その突き進む先は、東京だ…。
東京上空、俯瞰。東京湾を割り進み、首都に届く閃光、
都内、雑踏、閃光に染まる空を、何事かと振り仰ぐ人々。
上がる爆発、炎、瞬時に吹き飛ぶ建物、乗物、人…。
灼かれ、砕かれ、抉られていく大地。その無慈悲な炎と崩壊を前に、 すべての生命が等しく吹き飛び、焼け散り、滅んでいく。
東京を爆心地に、膨れあがる閃光。やがてそれは、東京のみならず、 関東一円全体をも包んでいって…。
★
ガイオーマのコクピットの中、閃光の中で、脳裏に走るビジョンを 見つめている優。
優・M「そう、か…」悟ったかのように、瞳を閉じる。「ブラック・ スフィアは…」
○空中要塞、コクピット
衛星からの、日本列島を映し出した画像に、茫然自失となっている 藤岡。
その、モニターに移る日本列島の映像、関東圏一円の部分が大きく 抉り取られている…!
藤 岡「関東平野が…一撃で消滅だと?」
バン、コンソールを大きく叩く音。
見ると、自席のコンソールに手を着き、俯き震えている指導者イオナ。
イオナ「…なんということを」
長い髪に隠れて、その表情は見えない。だがその垂れ下がった髪の 奥から、くぐもった嗚咽が聞こえる。
イオナ「私は…なんということを…」
○達磨島洋上
ザバァ…、すべての力を使い果たしたがごとく、海面から、ゆっくり とした動作で身を起こすザンサイバー。
弦 「………」
自分が、ザンサイバーが何をしたのかも判らず、茫然自失と なっている弦。
そこに、またも、哄笑が聞こえる。
二人分の笑い声。ひとりは三枝博士。もうひとりは…、
弦 「三枝、博士…そして…」
三枝の声「ありがとう! 本当にありがとう! あなたには、本当に 感謝の言葉も見つからないぐらいだわ!」
ボーンの声「僕からも礼を言わせてもらよ、斬馬 弦くん! 君の おかげで、すべてが、すべてがうまくいった!」
その、二人の、哄笑と狂気じみた声と共に、達磨島の周囲の海面が 次々と噴き上がる。そして水中から飛び出してくる、無数の、人型 多肢兵器。その装甲は全体的に丸みを帯びていながらもスマートな 四肢を持ち、邪悪な造形の成された胸部獣面からは、何本かの牙が 覗いている。
その姿は、まるでザンサイバーのような…。
三枝の声「紹介するわ、弦くん。本当の“破導獣軍団”よ」
弦 「なん…だと?」
声 「私からも礼を言おう、斬馬 弦」
その、ザンサイバー同様の人型破導獣の軍団、その隊長機とおぼしき 機体が声を発してくる。
それは、三枝博士の配下、皇 黄金(すめらぎ こがね)の声だ。
黄 金「いくら疑似ブラック・スフィアが“進化の刻印”さえあれば 稼働できるといっても、所詮器は子供の肉体、限界はある」
三枝の声「そこで、“進化の刻印”同様のブラック・スフィア 発動パルスを、人為的に作れないかと模索したの…そしてそれは 完成した。疑似ブラック・スフィアを幾つでも発動させ、そして ブラック・スフィア同様の、無限の次元波動エネルギーを得られる… 超次元干渉システム“ブラック・ファイアプレイス”がね」
黄 金「だが、その発動には、莫大な次元波動エネルギーの放射と、 そのエネルギーの干渉が必要だった…」
三枝の声「…東京を、一撃で消滅させるほどの、ね」
ボーンの声「そして、それを持っているとしたら、本物のブラック・ スフィアを持つ…ザンサイバーかガイオーマだけだ」
その、彼等の、狂気のこもった声に…身を震わせる弦。
と、またも達磨島近海の海面が、大きく膨れあがり、割れる。破導獣 軍団より、遙かに巨大な何かが、浮上しようとしている
三枝の声「そして、おかげで“本物の”私の軍団は、発動パルスを受け、 世界中で一斉に稼働したわ」
★
世界各地の主要都市、ニューヨーク、モスクワ、ロンドン、北京、 シドニー…。それぞれの都会に姿を現す、人型破導獣軍団。
★
三枝の声「この、ブラック・ファイアプレイスを内蔵した破導獣 軍団母艦、烈華翁と共にね!」
ついに、海上に姿を現す、全長700メートルはあろうかという 巨大空中戦艦――烈華翁! 弦 「手前、ら…」弦、唸る。「そんな…もんで…なにを、する、 つもり、だ…」
黄 金「愚問だ、あまりにも愚問だねえ、斬馬 弦」
ボーンの声「既に、僕の軍団の準備も出来ているんだ。僕の率いる、 ICON無人多肢兵器軍団のね」
★
破導獣軍団が姿を現す世界各地の主要都市。その上空から、さらに 姿を現す、MADARA-システムを内蔵した、ICON無人多肢兵器軍団!
★
ボーンの声「戦争だよ! この星の覇権を賭けた、僕と、姉さんと のね!」
三枝の声「誰にも邪魔できない、私たちだけの戦争――。たとえ 世界中の軍隊が干渉しようと、破導獣の持つ二次元絶対シールドの 前には、核兵器すら無力」
ボーンの声「そしてその絶対の盾を破れるのは、ペネトレーター という最強の矛を持つ、僕の軍団のみ」
三枝の声「大量破壊兵器で、無駄に地上を傷つけ環境を汚染すること もない、素晴らしい戦争よ――大量殲滅合戦でなく、兵と兵との1対1 で決着をつける…戦争のスタイルが、始まりの姿に引き戻されるのよ」
ボーンの声「大量殺戮兵器による無差別殺戮よりも、1対1で相手に こちらとの実力差を見せつけて踏み潰す…これほど理想的な戦争も ないだろう? 斬馬 弦くん」
三枝の声「…世界を滅ぼすトリガーとなる、“進化の刻印”はもう 葬った。もちろん用済みでもあったから」
ボーンの声「世界の終焉に、もう怯える必要もない。あとは僕か姉さん、 勝った方がよりよい未来へとこの星を導くはずさ」
黄 金「そして、そのためのすべてのお膳立ては整った!」
黄金の駆る、人型破導獣――断砕刃(ダンサイバー)の指先が、 ザンサイバーを指す。
黄 金「斬馬 弦、――貴様のおかげでな!」
哄笑――、
弦 「………」
歯を、ギリリ…、と噛み締め、操縦桿を強く握る。
弦 「
――外道ォォォォッ!!
」
ブースター点火!
真の破導獣軍団への真っ直中へと、飛び込んでいくザンサイバー――。
画面、ストップモーション、
昴・M「ここで、私の語るべき物語は終わります」
★
画面、暗転。
昴・M「――何故なら、おそらくこの先の物語を、私はこうして語る ことは、もう出来ないだろうから」
カット映像。世界中で始まる、破導獣軍団と、無人兵器軍団との 戦闘。
昴・M「だけど、私は――生きていきます。私の運命が、すべてを 滅ぼす引き金であるとしても…私は、生きて、この世界の行く末を、 見続けます」
画面、宇宙から見た地球の俯瞰。
昴・M「それに、私は、信じているんです…」
地球の、各地で点のように上がる、炎。
昴・M「すべてを断ち切るもの、その名を与えられた、ザンサイバーに 乗る兄が、きっと、このすべての人の運命を巻き込んだ、狂った環を 断ち切ってくれることを…」
画面、再び暗転。
画面クレジット。
「そして、世界は――」
「――戦場に墜ちる」
(「Destruction10」へ続く)
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