「流星人間ゾーン」

第4話「来襲! ガロガ大軍団 −ゴジラ登場−」

(脚本/上原正三 監督/本多猪四郎)
 99年〜00年冬頃執筆。 初出「JUSTICE 11号」


 70年代後半、テレビ界を席巻した「第2次怪獣ブーム」は、空前の量の特撮番組を放映、日本中を ブーム一色に染めるに至った。そんな中、元祖怪獣映画の老舗、東宝もブームに遅れじと自社製作による 特撮テレビ番組放映を模索する。

 そうして生まれた企画が、自社の誇るスター、ゴジラを主役に据えた30分番組である。しかし 諸事情により、その企画は大きな変更を加えて製作されることとなった。本格的巨大ヒーローを主役に、 ゴジラをその頼れる助っ人と位置付けての出演とした特撮ヒーロー番組、「流星人間ゾーン」の 誕生である。

 平和の星ピースランドを襲う宇宙の侵略者ガロガ。壊滅したピースランドから逃れた一家、ゾーン ファミリーは地球を第二の故郷とし、新地球人、防人一家として生活を始める。だがその星をも狙う ガロガ。奴等は自慢の怪獣兵器「恐獣」を、恐獣ミサイルに乗せて次々と地球に放ってくる!

 ファミリーの子供たち、光、蛍、明の三人はそれぞれゾーンファイター、ゾーンエンジェル、 ゾーンジュニアへと変身してガロガに立ち向かう。そして長男、ファイターはダブルファイトにて 巨大化変身する能力を持つのだ!

   かくして設定自体は当時の他社番組と比較して遜色のないものであるが、怪獣映画の老舗、東宝製作 の看板に恥じずそのスタッフはベテランを揃えた実に充実したものとなっており、監督陣には第1作を はじめとして多くのゴジラシリーズを手がけた本多猪四郎、福田純らが参加。特撮面においても 「日本沈没」を手がけた中野昭慶に、この頃デビューしたばかりだった、平成ゴジラシリーズの特撮を 一手に担った川北紘一らが担当。脚本陣にも「日本一の特撮番組脚本家(…個人的主観)」、上原正三が その名を連ねている。

 物語はある日、防人家の住む町にひとつの流星が落ちたことから始まる。もしや恐獣ミサイルでは?  ファミリーの協力者、丈と共に落下した流星を捜索する光と蛍。そのとき、丈を襲う謎のラジコン機。 負傷しつつも犯人と思われる男を捕まえる丈。だが、彼はピースランドの生き残りであり、蛍の 幼なじみだった青年、サチオだった。

 自分たち同様、生きて地球にたどり着いたピースランドの人間がいた。しかもそれは、自分がかつて 淡い思いを寄せていた若者だった。そのことを素直に喜ぶ蛍だったが父、陽一郎(故・中山昭二)を 始めとしてファミリーの態度は冷たい。丈が襲われたとき、あの場にいたのはサチオだけだ。彼が 犯人だという疑いを拭いきれないのである。そんな折、先の捜索現場から出現する恐獣ワルギルガー!

「ゾーン・ダブル・ファイト!」 巨大化変身する光。銀河をジャンプ! 宇宙を走るすごいあいつ、 ゾーンファイター登場だ! ワルギルガーの猛攻に苦戦するファイター。だが逆転の好機を掴み、必殺武器 ミサイルマイトにていざ反撃せんとしたそのとき、蛍の目前にてサチオの放った光線銃の一撃が 恐獣を消滅させる。

 まがりなりにも家族の危機を救ったことで、防人家に入るサチオ。しかし、それを喜ぶ者は蛍しか いなかった。彼が防人家への出入りを許されたのは、決してファミリーの信頼を得たからではないのだ。 「私にはあれが…本当のサチオ君だとは思えない。ピースランドにいた頃の彼の目は、もう少し素直だった」 。盲目状態の蛍を諌める陽一郎。地球での防人家は、玩具開発を手掛ける研究所を興している(ようは 自営による中小企業…の割に生活の羽振りは何故かよいのは、余程のヒット商品を開発したのだろう)。 しかし研究所を手伝うサチオの作る玩具は、戦闘機や戦車といった殺伐としたものばかりなのだ。

 そして、例の現場から恐獣ミサイルの破片が発見されたことで疑いが深まり、防人家を追われるサチオ。 悲しむ蛍。そして、サチオの使っていた部屋に残される、蛍への置き土産のオルゴール…。 オルゴールを鳴らす蛍。そのとき、部屋に残されていたサチオの作った玩具たち、戦闘機や戦車たちが 一斉に防人家の内部に火を吹く! 司令室メカルームも破壊され、さらに右肩を負傷する光。そして、 テレビ画面にて笑うサチオ。メカルームを破壊し、防人光が負傷した今こそ、ガロガの地球侵略の チャンスなのだと…。

 信頼と裏切りのせめぎあい。当話脚本の上原正三が、他作品においても度々ヒーローたちにぶつけてくる 過酷なシチュエーションのひとつだ。裏切り者を前に、果たして裏切ったほうが悪いのか? 騙される ほうが悪いのか…?

 しかし、ここでも上原正三の出す答えはたったひとつしかない。たとえ相手が何者であろうと、 誰かを信じること…「信頼」ほど尊いものはない。許すまじはその信頼を踏みにじった者なのだ。

 果たして東京に出現するワルギルガー。傷を負いつつも、ワルギルガーを倒すべく変身する光。 次元を裂いて飛んでくるすごいあいつ、ゾーンファイター登場だ!

 そして、ワルギルガーを操るサチオの前に、銃を手に現れる蛍…。「それで撃つつもり? 蛍は 僕が好きなんだろう。愛してる者を撃てるのかい?」残酷な微笑を浮かべるサチオ。「私を騙したことより、 家族を傷つけたことは許せない!」きつく目を閉じる蛍。悲しき銃声…。

 と、ここでコントロールを失ったワルギルガーに対し、ファイターの逆転劇があって、物語は切々とした 印象を残して終了…だったら美しいんだけど、ここで、視聴者がほとんど予測できなかった展開を 物語は見せる。

 撃たれ、倒れたサチオはガロガという悪魔の正体を見せた! なんと、視聴者に一切の説明もないまま、 サチオはガロガに改造されてしまっていたのだ! 駆けつけた明=ゾーンジュニアの助けもあって 撃退されるサチオガロガ。しかし形成不利と見るや、サチオガロガは唐突に(本当に唐突に)恐獣 スパイラーへと変身! 二大恐獣を相手に、使えない右腕を引きずり危機に陥るゾーンファイター!

 …以下は、自分が想像した当時のスタッフの製作会議。

  「そろそろゴジラば番組に出さなあかんけどどないしょ?」
  「どうせ出すならものすご怪獣が出てきて、ヒーロー大ピンチってのが絵になってええべ」
  「ほだら上原センセの脚本に、なんか敵の宇宙人のスパイさ出てくるがね。
   こいつば怪獣に変身させたらどやろ?」
  「おおええのお。怪獣二匹さ相手にヒーロー絶体絶命じゃあ」
  「そこへ格好よくゴジラが駆けつけてくるんじゃあ」
  「それええのお、それがよかべ」
  「ほだやるべか」

 …かくして、(たぶん)上原正三も脚本書いてる段階で予想できなかった部分にて、「お姉ちゃん、 ゴジラに応援してもらおうよ!」このジュニアのひと言にて、さっそく「信頼と裏切りのせめぎあい」 という物語テーマに屁ほどの関わりも見せず、駆けつけてくる正義の怪獣ぼくらのゴジラ!
 希砂未竜と名乗っていたこともある人が歌う番組主題歌をバックに、ゾーンファイターとのタッグだ!  がんばれ、かっこいいぞぼくらのゴジラ! テレビのまえのよいこもおおきいおにいさんもみんな おおよろこびだ! ゴジラのほうしゃかえんがワルギルダーをやっつけた! にっくきスパイラーも、 ファイターのミサイルマイトでこっぱみじんになったぞ! でもなんでひらがなでかいているんだろう?

 …クロージングで陽一郎が「サチオ君はガロガの誘惑に負けてしまった云々」の台詞が、なんとなく 白々しく聞こえてしまうのは自分だけでしょうか(苦笑)? どうせゴジラ登場させるなら、まるまる 1話かけて、「南海の大決闘」みたいに強力な恐獣に対抗すべく防人一家が眠っているゴジラを 覚醒させる…とかの、ゴジラ完全主役のエピソードで登場させて欲しかったところではあるが…まあ かくして銀幕の大スターはテレビ進出をも果たしたわけである。

 この後、番組にはさらにキングギドラ、ガイガンといった東宝映画の名怪獣が次々と登場する こととなる。家庭用ビデオデッキなどまだ普及していない時代、劇場の大画面狭しと大暴れしてきた 名怪獣たちの活躍がテレビでも見られるというのは、たしかに他の製作会社では出来ない、この番組 ならではの豪華な味だ。また、家族関係を軸に強い絆と信頼で悪に立ち向かうゾーンファミリーの 図は、まさに元祖「地球戦隊ファイブマン」、「救急戦隊ゴーゴーV」といった趣である。

 だけど…自社発展に大きく貢献した、大スターのお茶の間初登場、もう少し気ィ使えや 当時の東宝スタッフと、「お姉ちゃん、ゴジラに応援してもらおうよ!」の台詞を聞く度に 溜息が出てならない…。

 がんばれ! 正義の怪獣ぼくらのゴジラ!
(改稿 2002,9,16)

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