「スペクトルマン」

第25話「マグラー、サタンキング二大作戦!!」
第26話「二大怪獣東京大決戦!!」

(両話とも脚本/高久進 監督/土屋啓之助)
99年秋頃執筆。 初出「JUSTICE 10号」


 敵が宇宙猿人のゴリとラーという、バイキンマン並みのシンプルな設定が広く知られる本作だが (苦笑)、その実番組当初においての公害問題に端を発し、文芸面において他番組の追随を許さない 良作であったこともまた、多くのファンに認知されているところだ。

 かくして今回もバイキンマン並みの組織力しかないゴリ博士は、宇宙の果てから真っ赤に燃える 隕石を地球へと呼び寄せた。またも何故かわざわざ街中を避け、人っ子ひとりいない山中に落下する隕石。 たまたま(本当にたまたま)付近のホテルに休暇で宿泊していた公害Gメン調査員たる主人公、蒲生譲二 は同行していた同僚、立花みね子と共に隕石の落下地点へと向かう。大きく地面を抉り返し、 高熱を上げる隕石。その付近で蒲生たちが発見したのは、割れ砕けた直径3メートルはあろうかという 「卵」だった。

 その卵の中の小獣の死骸から、それが大昔地球に生息していた古代怪獣マグラーの卵だと推察する蒲生。 隕石の落下の衝撃が、地中深く眠っていた卵を砕き、地上に掘りあげてしまったのだ。そして、 その卵の傍らの地面から、回転しながら出現する三叉の角。やはり隕石落下の影響で目覚めた 親マグラーだ! 自分の子供の死骸が入った入った卵を手にする親マグラー。しかし、 そこから産声を上げるはずの我が子は、もはや永遠に目覚めはしない…。 悲しみの咆哮を上げるマグラーに、怪獣といえど同情を禁じえない蒲生とみね子。

 怒り狂い、我が子を殺した元凶たる隕石を激しく打ち据えるマグラー。だが、その隕石の中から 出現したのは、全身を赤熱させた恐怖の隕石怪獣サタンキング!  ゴリが邪魔者スペクトルマン抹殺のために宇宙の果てから呼び寄せた、悪魔の王とも評される 恐るべき怪獣なのだ! サタンキングを倒すべく、スペクトルマンに変身する蒲生。 だが怒り狂うマグラーは、スペクトルマンもろともサタンキングを倒すべく襲い掛かってくる。 三つどもえの戦いの中、右腕を折られてしまうスペクトルマン…!

 鬼子母神。子を思う母の願いを背負う女神。マグラーに重なるのはまさにこの比喩だ。

「ウルトラマンガイア/宇宙怪獣大進撃(第44話)」にて、本番組から実に28年の時を経て ついに怪獣の暴れる理由は考察されることとなった。しかしマグラーの暴れる理由は、 決して自らのテリトリーを追われたことによる恐怖でも、人間の社会を憎む破壊本能でもない。 あまりに、あまりに理不尽な理由にて、自分の側にて生を受けるはずだった我が子を殺された… その悲しみと怒りなのだ。

 一見、二大怪獣登場によるヒーローの危機話に見えて、実はこの前後編の主人公はマグラーに 設定されているといっていい。我が子を殺され、復讐のためにただひたすらその犯人(サタンキング) を追う親(マグラー)。我が子を慈しみ、その思いを、願いを踏みにじった者を許さない… それは我々人間とて当然の思いであり、だからこそ本来劇中の悪役でしかないはずのマグラーに、 ある意味ヒーローであるスペクトルマン以上に肩入れできるのである。

 右腕を折られつつ、母星ネヴュラ71から送られた新兵器、スペクトルガンにて (もっとも、使用されたのは今回だけ)憎きサタンキングを倒すスペクトルマン。 しかしマグラーの怒りは収まらない。我が子の仇、サタンキングを倒したスペクトルマンとて、 マグラーにとっては自らの手による復讐を邪魔した者でしかないのか? スペクトルマンに襲い掛かる マグラー。

「よせ、マグラー。お前とは戦いたくはない」。マグラーの悲しみを眼の当たりにしているだけに、 戦いを避けようとするスペクトルマン。しかし、ついにマグラーの突撃を受け、 共に断崖から海へと落ちるスペクトルマンとマグラー…。

 そして、劇中マグラーの生死はそれっきり不明となる。ひとり海を見つめる蒲生譲二は、 マグラーについて何も語らない。夕陽の海に、蒲生の瞼に浮かぶ、幸せに手を取り合う マグラー親子の姿…。

「あの夕焼けは、子供を殺されたマグラーの呪いの血の色かもしれない」。

 蒲生のモノローグにて物語は静かに幕を閉じる。

 果たしてマグラーは死んだのか? それとも再び地底に戻り静かな眠りについたのか…?  それはもう誰にも判らない。ただ、視聴者たる我々の脳裏には、 殺伐としたテレビの「怪獣もの」が見せた、この静かなクロージングが深く思い出に残るだけである。

 また、映像の中では見られないのだが、一峰大二氏の筆による当時の漫画版でも今回のエピソードは 漫画化されており、その中で、街で暴れまわるサタンキングとマグラーの足元に、 赤子(当然人間の!)の乗った乳母車が転がってくるというシチュエーションがあるのだが、 その乳母車の中ですやすや眠る赤子の姿に、死んだ我が子の姿を思い出したマグラーが、 そっと乳母車を自分の足元から押し出してやるという描写がある…。

 果たしてこれが番組本編の脚本段階で用意されていたシチュエーションか、それとも一峰氏が 書き起こした物かは不明だが…なんともマグラーという「子を奪われた親」の切なさが伝わってくる 情景と思うのだ。
(改稿2002,9,14)
目次へ